07

「あの村が襲われたのはおそらく―――いや確実に、俺達が関わっていた所為だろう。悪いことをした…」

本来だったら“悪いこと”で済むわけないだろう…と言いたいところだが、生憎佳乃はあの村の住人でもないし、あの場所に何か思い入れがあるわけでもないので、ただ「いえ、」と返事を返しただけだった。
きっと天人が土地を蹂躙し好き放題襲って戦を勃発させるようなこの時代では、一つの村が潰れるなんて日常茶飯事なのだろう。自分達の所為で村一つ消えたというのに涙の一つも零さない彼らは、端から見たら冷たい人間なのだろうか。
だが、おそらく戦争とはそんなものなのだ。人を人たらしめる心を麻痺させてしまう。佳乃が、生きるために死んだ人々を利用する事に―――嘘を吐く事を戸惑わなかったように。

「行く当てもないだろう。それなんだが―――よければ、俺達と共に来ないか」

彼らは優しい。佳乃の居場所を壊してしまったと思っている彼らは、行く当ての無い佳乃に手を差し伸べてくれる。こんな非力な小娘一人、お荷物にしかならないというのに。
願ってもない申し出だった。そして、予想の範疇の申し出。彼らの人格を思えば、非力な小娘である佳乃をここで放り出すようなマネは出来ないだろうという、佳乃の些か汚い計算は見事に当たった。
本当にいいのか?と聞けば、「今はどこも人手が足りない。行く当てのないお主を利用するようで悪いのだが…」と言葉を濁す。
やはり、彼らは優しい。佳乃は二つ返事でその申し出を受け入れた。
彼らの優しさを利用したのだ。

「…よろしくおねがいします…」

その言葉に苦笑を浮かべた桂小太郎は、「こちらこそ、すまない」と言う。

「お前、名前は?」

銀の髪がふわりと動く。その様子を見ながら、佳乃は少しだけ瞳を細めた。
そう言えば、まだ名前を名乗っていなかったという事を思い出した佳乃は、少しだけ微笑みながら、こう答える。

「佳乃、です」

良い名前だ。
微笑んだ彼に、胸がちくりと、痛んだ。







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