05

迷子。それも、世界規模の。
今の私を表す言葉に、それ以上の言葉はなかった。











「嬢ちゃん、帰るところはないのか」

どうやらこの村は攘夷志士なる者達と深い関わりがあった村らしい。
一通りこの村の惨状を見回した後、哀れむように自身を見る坂田銀時に返事のしようがなくて、佳乃は視線を彷徨わせるしかなかった。


帰るところ。

自分の家。

自分の部屋。

家族のいるところ。


結局、その問いに、佳乃は答える事が出来なかった。

「…ない」

それ以外に答えようがないのだ。
そう。佳乃の帰る場所はどこにもない。この世界には、何処にも。
目の前に居る男が良い証拠だ。

「ここは…私の世界じゃない」

それは、坂田銀時に対して言った言葉ではない。
自分に現状を理解させる為に言った言葉だ。
言葉にしてしまったからにはもう元には戻れない。それを理解した上で。

だが、現状を理解は出来ても、納得は出来る筈もない。
半ば自分に言い聞かせるように言ったその言葉に、佳乃は拳を握りしめた。

違う。

自分が居た世界は、こんな血と埃に塗れた世界じゃなかった。もっと平凡で、退屈で―…


「わ、たし、は」


(私の、世界は)

失ってから、その価値を初めて知った。あの平凡が、退屈が、どれだけ素晴らしいものだったのかを。
確かに、佳乃は助けて欲しいと、あの時強く願った。だけど、こんなの。

ぐるぐると思考していたら、ぽん、と頭に手を置かれた。


「…つらかったな」


縋りたくなるほどに暖かい手だった。労いの言葉と同じで。

おそらく、この人は佳乃をこの村の遺児だと思っているのだろう。
でも違う。佳乃はこの村の人間ではない。いや、この村どころか、この世界の人間ですらない。
先程ばけものを見てその姿を異形だと思った佳乃こそが、この世界では異端なのだ。


「世界は」

私を見捨てたのだろうか。



ぽろり、と唇からこぼれ落ちた言葉。

きっとあまりにいろいろな事が在りすぎて、脳がそれを処理しきれなくなったのだろう。記憶が残っていたのはそこまでだった。







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