04

「―…怖かっただろ」

ばけものを切り伏せたばかりの男は、足下に転がったその死体に一瞥をくれただけで、それを殺したという行為にはさほど何も感じていない様子だった。
それだけに、今気遣わしげに佳乃を見るその表情と大きなギャップを感じる。

佳乃は聖人君子ではない。まさか自分を殺そうとした生き物に対して憐憫を持つ訳もなく、足下に無様に伏せているばけものには何の哀れみも感じなかった。

ああ、殺されなくてよかった。

安堵し、そこで佳乃はようやく、自分が震えている事に気がついた。
あと一秒、この男が助けに入るのが遅かったならば、足元に伏せていた肉塊は佳乃だったに違い無いだろう。

怖い。

直感的にそう感じた。

自分からは最も縁遠いと思っていた死が―――こんなに近くで、佳乃の顔を覗き込んでいる。


怖い。

この男が、怖い。

それは、なにもこの男がばけものを殺したからではない。

佳乃にとってこの男は―――…この男の存在は、自分の存在を根本から揺らがせるものに違いないからだ。


もしもこの男が本当に―――本当に、『坂田銀時』だったとしたら?

自分は―――今この場に存在する自分は一体、『何』だ?


「………あ、あなたは、………誰?」


震える唇で、そう問いかける。
助けてくれた礼も何も言わなかったというのに、男は嫌な顔ひとつせず、その問いに答えようと口を開いた。

お願いだから、これ以上の絶望を与えないでほしい。
そんな願いも空しく、男は佳乃に現実を叩きつける。



「俺は坂田銀時。攘夷志士、だ」



予想通りすぎてその事実を納得する反面、佳乃は、一瞬呼吸する事を忘れた。







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