久しぶりにケルトのほうへ出向いた。今日は冒険はお休みの日だ。
なぜなら、最新エリアの最後のレアモンスターだけがどうしても倒せなくて、いたずらに時間と体力を消費するだけになってしまい、パートナーとしてついてきてもらっていたハデスさんに一度息抜きしてこいと言われてしまったからである。ハデスさんにはごめんねと謝りつつ、ありがたい気持ちでその言葉に甘えたのだ。

いつもの重装備は脱ぎ捨てて、ちょっとオシャレのつもりでワンピースを着てみた。手に持ったバスケットの中には干し肉と蜂蜜酒、それからこの前手に入れた高級赤ワイン。きっとお酒好きなケルトの神様たちは喜んでくれるだろうと思うと足取りが軽くなる。けれど今日は誰にも来ることを伝えていないため、果たして誰かに会えるのか少し心配になった。なにせこのケルトは自然豊かで土地は広大だ。ケルトに入ってからちっとも誰にも出会えない。森林浴をしながらお酒を飲むのも悪くないかな、なんて思い始め適当なところで腰を下ろした。


「ああ、ここにいたのか」

「オグマさん」

「ケルトに来た気配があったから探したよ」


草木が揺れる音がしたと思えば、そこにいたのはオグマさんだった。やっと会えた神様がオグマだったことに少し驚いた。だって、彼は会いに行かなければ会えないくらい行動範囲が限られているから。そんな彼が私を探したとは、驚かないわけがない。
オグマさんはそんな私のことなんて気にもとめず、私の隣に座った。


「久しぶりだな。どうした?」

「ちょっと息抜きに来ちゃいました」

「そうか」

「あ、お酒持ってきたんですよ」


そう言ってバスケットから持ってきたものを取り出せば、オグマさんから感嘆に声が漏れる。これは喜んでもらえたみたいだ。ほっとしているとオグマさんはワインに熱い視線を送っていた。そのたまに見せる仕草がクールで大人びた彼に子どもっぽさを与え、近づきやすくさせてくれる。
用意していたグラスに彼が飲みたいであろうワインをついで渡せば、驚いたように目を見開いた。しかし、すぐにオグマさんはグラスを受け取って一口飲む。そして、うまい、と一言こぼして微笑んだ。こうやって表情をだしてくれるようになったことが素直に嬉しい。ついついじっと見てしまってオグマさんに不思議がられた。
目があったこととじっと見ていたことがばれたことが少し恥ずかしくなって、自分のグラスにもワインをついだ。口に含めばブドウの香りとほどよい渋みが広がる。久しぶりのアルコールの味に気持ちよくなる。


「俺がいてやるから、今日は存分に飲むといい」

「ふふ、ありがとうございます」

「そして、もっと俺に会いに来い」

「え?」

「息抜きしたいなら付き合う。そのくらいなら俺にでもできる」

「そんな、オグマさんにはもっとお世話になってますっ」


まるで自分が無力であるかのような口ぶりに戸惑いを隠せない。確かに、最近の冒険はハデスさんばかりだったけれど、だからといってオグマさんの力不足というわけでは決してない。言いたいことがたくさんあるのに、二の次がでてこない。これは私の悪いところだ。
そんな私のことをわかってくれるオグマさんは微笑んで、頭を優しくなでてくれる。そのあたたかい手に私の気持ちは落ち着いてしまった。そして、オグマさんは私が言いたいことがわかってるよと言い聞かせるように撫でてる。オグマさんの思慮深さに私はただ気が緩む感覚がした。彼は甘えていい居場所を私にくれたのだ。


「いま大変なんだろう?なら、ここで俺ができることは酒に付き合うくらいだ」

「…ありがとうございます」

「ああでも、」

「?」

「次来るときには、一番最初に俺のところに来ること」


そう言ってオグマさんは私の手をとり、ちゅっとリップ音を立ててキスを落とした。その一連の流れが優雅であり、さまになりすぎていて自分の手にされたことだと理解してから一拍かかって私の顔は熱くなった。


「わかった、お姫様?」


自信ありげな笑みを浮かべ金色で見つめられ、私はこくこくと頷くしかなった。オグマさんはその答えが満足だったようで、手を離してまたワインに口つけた。
私もこのドキドキを誤魔化すように、ワインをぐいっと煽った。





木漏れ日のなかで
(いろんな神様に愛されてる君だから)
(ついつい独り占めしたくなる)
(まあ、今日だけは独り占めさせてもらおうかな)



130531






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