気持ちよすぎるくらいの青空。河川敷の小さなグラウンド。そこに白い球が孤を描いて飛んでいくのが見えた。その軌跡を辿ればむかつくくらい爽やかな笑顔の少年。私はブレーキを握って自転車を止めた。


「山本ぉー」

「お、姫!」


シャツの裾で額の汗を拭いながらニカッとまた笑う。それが本当にかっこいいんだ。また胸がきゅんってなる。それと同時に切なさが増してくる。グラウンドに続く階段を一段一段降りながら山本に話かける。


「自主トレ?」

「まあな!」


山本の練習相手のピッチャーくんはすれ違いで帰ってしまった。山本は素振りを始める。私は転がった白球を拾い上げる。それを持ってマウンドまで歩いていく。


「そういえばさー」

「んー」


マウンドに立てば山本は素振りを止めてバッドを握りなおした。私もぎゅっと白球を握りしめる。


(どうせなら気づかなきゃよかった、この気持ち)

「最近どーなの、」

「なにがー?」


ぐっと白球を振りかぶる。ピッチャーくんの真似しながら。


(気づくなら、もっと早く気づけばよかったのに)

「彼女っ」


ぐっと渾身の力で投げきる。でも、カキーンって金属音を鳴らして簡単に飛んでいった。それを目で追った。青空にくすんだ白球がなぜか虚しかった。


「別れた、一週間前」

「へーえっ、はあ!?」


勢いよく振り返ったらやけに清々しい顔の山本。それに対して私は多分かなりの間抜けな顔をしてるだろう。


「なん、で」


あんな仲良かったじゃん。私の気持ちなんか知らないで、彼女の話いっぱいしてたじゃんかっ!言いたいことがいっぱいあるのに声が続かない。


「好きなやつ、ちゃんとわかったんだ」

「は?意味わかんない」


足元に転がったボールを拾った。頭の中はもうぐちゃぐちゃ。山本の好きなやつ。

「てか、誰だよっ」


力任せに思いっきりボールを投げた。投げた後に後悔した。なんで、また、自分を虚しくさせることしたんだろう。ばかだ。山本はバッドを振る。


「姫っ!」


また気持ちよく打たれた白球を見送ることはなく、私はバッターボックスに立つ4番バッターを見ていた。


「は、あ?」

「オレ姫が好きだ!」


他のやつと付き合うまで気づかなかったなんて、かっこわりぃけどなってバツが悪そうに頬をかきながら山本は言った。


「で、返事は?」

「いきなりすきだ!バカ!」


だよなって笑う山本がむかつく!なんだよ、告白のあの甘いムードとか緊張の雰囲気とか全部無視なわけなのね、あんたっ!そんでもってこのつらかった半年もさらっと終わらせるのね!あー本当にもうっ!


「私だって好きだよ!バーカっ!」


それだけ半泣きで叫んでマウンドから走って逃げた。愛車のピンク色の自転車まで、階段を一気に駆け上がった。だけど、爽やかな野球少年にあっさりと捕まる私の身体。







夏空4番
(山本汗くさいっ!)
(姫は顔ぐちゃぐちゃなのな!)



090815

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