よく晴れた、風も心地いい午後。教室には教師が黒板を書く音と生徒がノートにペンを走らせる音だけが空気を満たす。私もノートにペンを走らせていた。
「姫ー」
小声で自分を呼ぶ声がした。誰かは振り替えらなくても解る。
「なに」
一応肩ごしに微かに振り返ると、目に入ったのはやっぱりふわふわの赤毛頭。
「ヒマー遊ぼうぜぃ♪」
「……丁重にお断りします」
そう言ってまた黒板を写し始める。
「えーいいじゃーん、遊ぼー」
「丸井さん授業中」
わざと白々しく答えた。丸井ブン太という男は一番後ろの窓際というベストポジションの席をいいことに、席替えしてから授業中によくこういう風にちょっかいを出してくる。
「丸井さんとかヤダー」
「だから、授業中だってば」
なんで、こんなにちょっかいばっかり出してくるんだろ。
「ねぇねぇ姫、姫」
「……なに、」
でも、なんだかんだでちゃんと答えてやる自分は偉いと思う。また少し振り返った。
「ブン太って呼んで♪」
「…なんで」
「姫に呼んでほしいからに決まってんだろぃ」
この時ニカッて子どもっぽく笑った顔に、不覚にもドキッとしてしまった。そのことに慌てて前を向いた。
「やだ」
「なんで!?」
「必要ないし」
なぜか少しドキドキして後ろを振り向けない。
「いや、オレが呼んでほしいってことはオレが必要ってことだから」
「へ理屈」
「えー」
不満の声が後ろから投げかけられる。
「えーじゃない。てか、なんでそんな私にちょっかいだすの」
「あーそれは…」
かまってほしい症候群
(だから♪)
(なにそれ…)
(姫にかまってほしいの!)
(……授業終わったらね、ブン太くん)
(あ!名前!)
(うっさい)
081015