Utagawa side

「待てよ、北城!」

白の印象が強いリビングの入り口付近で、俺は思わず叫んだ。
理由は簡単。仮にもリーダーで判断役である北城が、予想だにしない言動を取ったからだ。

もうじき広場にラッカーが出現することを呼んでの出動命令。
いつもよりも数が多いらしいから人数としては二人。
それについてはわかるし何の異論もない。ないんだが。

どうして、雛穂と京を選んだんだ。

「何だ歌川、行きたいのか?」

「いや、違ぇけどっ…」

何をどう解釈したら俺が任務に出たいなんて話になるんだ。
あんな化け物と積極的に戦うほど、俺は命は粗末にしたくねぇよ。

きっと北城も本気でそんなことを言ってるわけじゃない。
訳じゃないけど、あえてそういうかわし方をしている。

「じゃあ何だ、何か不都合でもあるのか?」

「それは……」

京が、雛穂の両親を見殺しにしたから。

なんて言ったところでどうなる。そもそも言うべきじゃない。
もしかしたらこのことを知ってるのは俺だけで、他の奴らは知らないかもしれない。
こんな縁起でもない話を言いふらすほど俺の根性も腐ってないはず。

俺が口に出来ない事を北城もわかって言ってるんだろうからタチが悪い。
結局それらしい言い訳もできずに黙り込んでいると、北城はパンパンと手を叩いた。

「…よし、じゃあ決定!すぐ現地に向かってくれ」

その合図で京はソファから腰を上げ、窓から外を見ていた雛穂もくるりとこちらを向いた。
目線を合わせることもなくこっちに歩いてくる二人は、やっぱりどこか表情が暗い。

「邪魔、どいて」

「っ……」

ちょうど入り口前に立ってた俺を雛穂は避ける事もなく肩をぶつけてから出て行った。
見るたびに冷たい印象を与えるその瞳は、いつも以上に光をなくしている。
きっと視線の先に捕らえているのは京だけなんだ。

自らの両親を見殺しにし、それでものうのうと生きている京を。

「……あ」

「どしたん、斎藤?」

二人が居なくなって、リビングがまた静寂に包まれた頃。
少しばかり緊張感の緩んだ部屋の一角で斉藤が声を零した。
後ろ姿しか見えないけど、確かに斎藤は窓から空を見上げてこう言った。

「雨が降ってきた……」


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