Hinaho side

その日は、雨が降っていた。


容赦なく降り注ぐ大粒の雫
濡れていく色鮮やかな植物達
そして、私の前に立ちふさがる大きな影。

「あ……、あ……っ」

怯えた私は、後ずさるしかなかった。
へたり込んで言う事の聞かない足では地面も蹴れはしないけれど。
月の逆光でよく見えなかったけれど、それでもこれだけは覚えている。

灰色の瞳が…雨よりも凍えそうな冷たい瞳が

ただ何も言わず、私を見下ろしていた事を。



「―――――――っ」

その瞬間、私はベッドの上で起き上がった。
真っ暗なその部屋に窓から差し込む月明かりだけが映っている。

(汗……)

重い前髪を払って、額を拭う。
私はそこにびっしょりと汗をかいていた。

なんでこんな時に見てしまったんだろう。「あの時」の夢を。
私が幼い頃の、五年前の悪夢を。


どうして今更、思い出してしまったんだろう。


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