ここで本性を現して襲ってくるかと、覚悟はしていたが。

「じゃあ、近づかない」

男は手を頭の後ろで組んで、へラッと笑ってみせた。
警戒心もなにもない自然体なその様子につられてこっちも少しばかり緊張が緩む。

「でも、お願いあんだー。とりあえず俺の話聞いて」

「……」

相手が穏便にことを進めようとしてるらしいことが伝わって、また緊張が緩む。
何だ、こいつは化け物じゃないのか。本当にただの人間なのか。
こっちが刃物を向けても怖がらないのは、見くびってるからじゃなくて、話せばわかることを理解してるからなんだろうか。

「…本当にあの化け物じゃないんだな?」

わずかな希望をこめて口にすれば、男はまた笑って頷いた。

「うん、俺人間。その化け物ってのにも心当たりあるからさ、とりあえず…」

とりあえず、何だ。
聞こうとした途端に、男はふにゃりと頭をうなだれた。

「…ベッド貸して……」

「……」

眠くて眠くて仕方がない、それは見ているだけでもわかった。
あぁ、こいつ、本当に人間だ。

それがわかるとすぐに警戒心もとけて、無駄に警戒してたさっきまでの自分が馬鹿らしくなった。
それにこいつはあの化け物のことまで知ってると言う。それはなかなかに有益だ。

あんなところで寝てたくらいだからよっぽど眠いんだろうという事を悟り、要望どおりベッドを貸してやることにした。


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