チーフの言うとおり、俺はこんな簡単な嘘にすぐ引っかかってしまう。
そしてその度に軽く絶望するわけで。
そんなことにも慣れ始めた今日この頃だってのに…

「いるよ、絶世の美女」

今日ばかりは、目の前に本当に美女がいた。

瞳が青くて、ボブカットの黒髪で。その髪も太陽が当たれば紫に反射する。
着ている服は比較的だぼっとしてるからわかりづらいけど、それでも線が細そうだ。

まつ毛なげぇな。俺と同い年くらいかな。

やべぇ、本物の可愛い子現れたよどうしてくれんの。

「…………」

「? えと…?」

ところがその子は俺が話しかけた瞬間に、顔を一気に青ざめさせて逃げていった。
水汲みに浸かっていたらしいバケツが落ちて、水があたりにばら撒かれる。
突然の出来事にさすがの俺も目が冴えた。

「えっ、なに?」

『どうした!?』

「…逃げられた?」

『村人か!?追え!早く!』

「でも眠…」

『行けっ!!』

「はいはいっ」

怒鳴られるままに身体を起こし、俺は黒髪美女を追って走った。


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