「へ、まはほーひゅうきえへへーお?」

ちょっと今のは何を言ってるか自分でもわからなかったと思う。
だから一応訳しておくと、「まだ報酬決めてねーの?」となる。

またまた一夜明け、俺は共同の洗面所で歯を磨きながらキュオに問いかけた。
キュオは初めて会ったときみたいなダボッとしたチャイナ調の服を着てる。

くくるには短い黒髪を一つに束ねてて、やっぱ女の子みたいだなー美人だなーと今日も思うわけだけども、どうやら本人は疲れているらしかった。
疲れてるって言うか、目元にくっきりとクマが出来て、寝不足な感じ。

「徹夜でずっと考えたんだけどな……」

「ほんらひ(そんなに)?」

どうやら寝不足の原因は報酬らしい。
まだチーフに要求を伝えてない以上、早く決めないとって思ったんだろう。

ところが何でもいいって言われたら逆に何にすればいいかわからなくなるのが人間だ。
特にキュオたちは貧しかったから、なにかと我慢する癖があったらしい。
だからいきなり何でも揃ってるところに移住して、頭がついていかないんだ。

なるほどなー、と歯磨き粉を洗い流しながら俺も納得した。
確かによほど明確な願いでもない限り、急に言われても難しいよな。

「さすが"欲を溜め込まない"がモットーのクライマ機関……地図全部見たけどすげーわココ……」

「あはは、大抵の欲は解消できんだろ?」

欲は溜めずに、即発散。まぁ一晩で地図を全部見たキュオもすげーけど。
一言で表すなら、会社と家と商店街と病院と……まぁその他色々と全部合併しちゃってるわけだ。だからここは街なんだよ。

「そんな深く考える事無いんじゃね?退職したら何がいいかで充分だろ」

洗面台に肘を突いて頭を抱えるキュオの背中をポンポンと叩いた。
ホント、真面目な子はそういうことでも極端に考え込んじまうよな。




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