Cuo side

なんなんだ。一体なんなんだアイツは。
リクレスだか何だか知らないけど、ずけずけとやってきて要求もめちゃくちゃで。
そんな命令に誰が従うか。

「……」

胸元に飾られたブローチに目を落とす。確か、母さんがイタリアに行った時に安くで譲ってもらったって聞いた。
見るからに高価なものだから、うちみたいな貧しい家じゃ手が出せないと思ってたけど、良い人も中には居るもので。
だからそれは我が家ではとても大切なものになってた。その上、母さんの形見だ。

「……それなら」

ボソリと呟いた声は廊下に反響すらしない。
あの男がこれをピースだとか言ってたけど、嘘だとは思えない。これが本当にピースなら、やることはひとつだ。
これを使って、あの化け物どもを倒す。

そう誓った矢先の事だった。

「!?」

―ドオォォォオオオオオン!!―と、外から何かが落下してきたような爆音が聞こえた。
もしかしなくても、これは。

(!…そういえば、ジャンタは!?)

確か水を汲みに行くとかいって家を…だとしたら、今頃襲われてるかもしれない。

「っ!!」

居ても経っても居られず、玄関に向かって走り出した。
頼む、どうか無事で居てくれ。
薄暗くて狭い我が家を床がきしむのも構わず全力で駆け抜けて、さび付き始めた扉を大げさに開いた。

そうすれば、案の定薄暗い空は大量の"黒"で覆われていて。
バケツを持ったままジャンタはその場で立ちすくんでいた。



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