ここまで言ったら俺の言いたいことは大体わかるだろう。俺は出来るだけ声を下げて、「だから」と続けた。

「これ以上化け物に襲われたくないなら、俺にブローチを渡せ」

しぃん…と静まり返る小部屋。
ここで「わかりました」と渡してくれたらありがたいんだけど、そういう人とそうじゃない人の両方が居るからな。
どうかキュオは前者であることを願ったけど…残念ながら。

「ぶっ…あっつっ!?」

突然顔面にクッションを投げつけられ、その勢いでマグカップから熱々のスープが零れ落ちて。
火傷間違いなしの嫌な熱が俺の脚を襲った。

「…ブローチを渡す…?」

すぐさまハンカチでズボンを拭っていたら、そんなドスの効いた声が耳に届いた。
震えているというか、怒っているというか。やべぇ、もしかして地雷?

「ふざけるな!!ピースだか何だか知らないけど、母さんの形見を簡単に渡せるか!!それ食ったら出てけっ」

今まで以上のおっかない顔で怒鳴り散らしたキュオは、乱暴にドアを閉めて出て行った。
あ〜あ、こりゃ難しそうだわ。たまにこういう強情な人が居るから、交渉って苦手なんだよなぁ。

「…うーん、女心は秋の空…?」

どこかで聞いた異国のことわざを口ずさんで、ぽりぽりと頭をかいた。


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