3話





青い衣を着た男子が運動場を回り続ける。話によれば持久走らしい。
授業中延々と運動場を走り続けるのだ。体力だけでなく、精神力も試される。

まあ、忍たまが授業中ってことは当然くの一も授業中なわけで。
私は教室から小さく見える運動場を先生の目を盗んで見ている。


私は特別目がいいってわけじゃないけど、やっぱり好きな人の姿は特別っていうの?
勘右衛門がどれか、なんてすぐにわかっちゃう。
 
もう授業も半ばだから皆へばってる。ああ、可哀そう。きっと疲れてるんだろうなぁ。
うん、きっと疲れてる。ってか疲れてないほうがおかしい。

・・・チャンス?

思いつけば即行動。それが私の特技であり売りだから!!!
私は顔をゆがめてまっすぐに手を伸ばした。

「せ、先生」

教科書の内容を説明していた先生の声が止む。
私は明らかに病人です、といった感じに身を縮めた。

「すみません、腹痛がひどくて。保健室へ行っていいですか?」

先生の顔がじっと私を見る。先生はふっと息を吐く。


「だめです」

なんで・・・?
いやいや、お腹痛いって。薬飲まなきゃやばいかもよ?盲腸かもよ?

「サボる気でしょ、花子ちゃん」

まさか言い当てられた。しかしばっくれないと私の立場がない。
「そんなんじゃありません、本当にお腹が痛くて」
ドキリとした。先生が窓枠によった。そこからは当然、運動場が見える。

「あなたが五年生の忍たまに懸想しているのはくの一教室じゃ周知のこと。先生が気づかないとでも?」
・・・まあ、あからさまだしね。

「でも先生、痛いです」
「ここで保健室に行くなら、後でたっぷり課題を出すけど?」
「すみませんでした」

私は頭がよくない。よってそんなたっぷりの課題なんて出されたら、泣けるのではないだろうか。

「次からはもっとうまくやりなさいね」

先生はニッコリ笑って障子を閉めてしまった。
くそぉ。もう運動場は見えない。


せっかく、走って汗だくになった勘右衛門に手ぬぐいと飲み物を渡して笑顔で「お疲れ様♪」って言うつもりだったのに。
そしたらさ、「あれ、こいつ気がきく」ってなるじゃん?高感度急上昇じゃん。他の女子より一歩前へ進めてるんじゃない?これ。
ちぇ。しかたないから、次同じシチュエーションだったときにどうやって抜け出すかだよな。

先に情報を仕入れられたときにあらかじめ手ぬぐいと飲み物用意して待機するか。で、鐘が鳴った瞬間速攻で走って、届ける。
あ、でも手ぬぐいはもう一枚必要。

汗をかいた顔でなんて会いたくない。じゃあ、息を整える時間もいるなぁ。
だって息を切らしている顔なんて好きな男に見せるわけにはいかないでしょう、女の矜持として。

なかなか難しいな。次くの一教室が自習になったときに、汗をかくような実技をすればいいのに。
全てが私の都合で動けばいいのに。







ヘムヘムの捨て身の鐘が鳴る。
今から行っても、飲み物も手ぬぐいも用意できていないから意味がない。
疲れているところに、用もなく話に行くなんて鬱陶しがられること間違いなし。

・・・これが良子だったらきっと笑顔で迎え入れてくれるんだろうけど。

ちらりと離れた場所で座っている良子を見る。
背が伸びて、凛として見える。だらりと机に上半身を乗せている私と大違い。
綺麗だなぁ。
でも、羨ましいとは思わない。憎らしいとは思うけど。
憎らしいのは勘右衛門の好みが良子だから。
私は良子になりたいわけじゃないから羨ましくはない。
いつかきっと、勘右衛門の好みを私にして見せる。





「花子ちゃん」

目の前ににゅっと足が現れた。
先生がニコニコ笑っている。
手には厚みのある紙の束。

「はいこれ」
目の前にそれが突き出された。
「え、これなんです?」
「課題」

・・・は?いやいや、私保健室我慢しましたよね?

「今日まで忘れてたんだけど、一回授業サボったことあるわよね」

・・・どこから漏れた。
確かその日は五年生が人馬の練習をするって聞いたから授業サボって、隠れて見てたんだ。勘右衛門、可愛かったなぁ。

「しかも今日と同じような理由よね?」
なんでばれるんだろう。姿隠していたはずなのに。

「だからその分の課題」

ズッとより近づく紙の束。
ゲンナリするしかない

「先生、時効って知ってます?」
「私の辞書にそんな単語ないわよ」
受け取らない私が面倒になったのか、先生は課題を机の上に置いて、ご機嫌で出て行ってしまった。



ああ、もう。ついてない。


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