30話





朝、食堂の入口前の角にて勘右衛門の足が一度止まる。
花子という人間に以前より多く接する機会が増えたこの頃、苦手意識も払拭されつつあったが、条件反射とはそうそう剥がれ落ちてしまうものではない。
しかし以前ほど心の内が乱れることがないのが事実だ。
ヨシ、と軽く意気込んで勘右衛門は他の四人と一緒に角を曲がった。

しかしそこはいつものようでいつもの様でなかった。
そこにいたのは一人だけだったのだ。
皆が首を傾げる。

「三郎一人か?」

八左ヱ門が目を開いて尋ねると、三郎はゆっくり頷いた。
肯定されるとそれの理由を想像する。誰かは寝坊、誰かは体調不良、誰かはお使いとそれぞれの想像が膨らむ。
「田中さんは?」
素直に自分の疑問をぶつけたのは雷蔵だ。
三郎は返事のように食堂を一度見た。
「もう中に入ってるよ」
勘右衛門と三郎を除く四人が首を傾げた。

この四人はまだ花子の恋が終わったことを知らない。
勘右衛門は恋が起こっていたことを終に知らなかった。
しかし今朝花子がいないのは前日の「今までごめんね」に含まれていることなのではないか、と推測した。
つまり勘右衛門の推測は「今まで食堂で待ち伏せてごめんね、もうしないわ」ということだ。
勘右衛門にとって花子が食堂前で待ち伏せていた理由が解明されていないのだが、今待っていない状況とはそういうことなのではなかろうか、とすんなり結びついた。
鈍感な彼にしてみれば快挙だ。
意気込んできた勘右衛門は拍子抜けしたが、力の入るイベントが起こらないからいいか、と一人で考えを落ち着けた。


グウと勘右衛門のお腹が鳴る。
「腹減った、飯食おう」
戸惑う周りを置き去りに、勘右衛門は入口に近づく。三郎も同じように食堂の入口に向かう。
勘右衛門は食堂に入り、やはり少し気になって食堂を見渡した。
端に友人と一緒にいる花子の姿を見て、勘右衛門は少し違和感を持ったが、気にせずおばちゃんがいる方へ向かった。




外に残された四人は花子の行動の変化にそれぞれ恋の終結を予想したが、勘右衛門の気分が晴れていることからそれを打ち払った。
関係が良好になったのに何故、花子は朝の習慣を止めてしまったのか。
勘右衛門に聞いたところで分からないから、花子に聞きたいと思うものの、触れるのが少し怖くて間を置くことに決めた四人だった。


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