14話
木陰でゴロンと青い集団が固まっている。
授業が午前中で終わり、委員会もなく、暇な五人は木陰で昼寝をすることにしたのだ。
他の忍たまたちは庭で遊びまわっているというのに、若い時を無駄に過ごしている。
若い男が木の根元に五人集まって寝ている様は奇妙である。
「暇だな。しりとりでもするか?」
「何でしりとりなんだよ」
昼寝に飽きた竹谷が言いだした。それに鉢屋がダラダラと返した。
「暇だからだよ。しりとりの『り』からだから、りんご」
「ごはん」
「・・・三郎」
暇つぶしに始めたのに、やる気がない三郎が二つ目にして終わらせた。
「悪かったよ。ごま」
「まぬけ」
「けまり」
「りす」
「すずめ」
一周してまた八左ヱ門に戻ってきた。
「めじろ」
「ろじ」
「じしゃく」
「くものす」
「くも、じゃないんだ。すいか」
「かも」
おそらく終わる前に飽きがくる。
ダラダラと何周も回るが、終わりが見えない。
「あ〜、もうこのままだと苔が生える。あれしよ、学園内鬼ごっこ」
「そうだね。暇だし」
ういしょ、と皆上半身を上げる。
「じゃ、鬼きめよう。じゃんけん」
厳選なる審議の結果。
鬼、久々知と雷蔵。
「じゃあ、四十秒な」
二人を残して他の三人は走って逃げた。
二人は声を出して数えだす。
5秒まで数えたらすでに三人の姿はない。
ここで学園内鬼ごっこのルールを説明しましょう。
まず範囲は学園内のすべて。教室も長屋も蔵も、もちろんくの一教室も含まれます。ただくの一教室に入ると、鬼に探してもらえず悲しい思いをします。
鬼は二人。そして鬼は頭巾を必ず外していなくてはいけません。しかし鬼以外は頭巾を外そうが外すまいが自由です。頭巾を外して「俺は鬼だ」という逃げ方がありますが、「じゃあタッチさせろよ」となるのであまり使えません。
また鬼にタッチされ、鬼になったら必ずその場で30秒数えなくてはなりません。
ルールは以上です。
勘右衛門は建物の影を歩いていた。
教室や長屋の縁の下や屋根裏は定番すぎてすぐに見つかってしまう。
学園中使えるのだから、鬼の様子を見ながら移動していた方が見つからない。
それはこの鬼ごっこ歴5年目の勘右衛門が編み出した考え方だった。
人気のないところを探してふぅと息を吐く。鬼ごっこは遊びだけれど、いつも真剣勝負だ。
今日は鬼が三郎じゃなくて良かった。三郎は変装して近づいてくるから。
鬼が頭巾を外すというルールは三郎封じと言っても過言ではない。学園内の人間のほとんどは頭巾をしているから。でも時々油断してしまうことがあるから注意だ。
「もう少し、移動するか」
できるだけ人が来そうにない所を選ぶ。
人声が聞こえたら要注意。
あと動物も注意。時々八左ヱ門が使ってくるから。何でもアリだから、八左ヱ門に有利だ。
今回雷蔵と兵助が鬼だから、注意すべきは下級生。雷蔵が時々使ってくる手だ。
意外と皆手札を持っている。
それから逃げるのがスリルだ。
もう少し、奥に行こう。
壁に沿って歩くと、ふと人声が聞こえた気がした。
やばい、鬼かもしれない。身が固まるが、確認しないことにはどうしようもない。
もし鬼じゃなかったとしたら、絶好の隠れ場所を棒に振ることになるからだ。
足音に細心の注意を払い、進む。気配がこちらへ向かってくる様子はない。
確かに話声がするが、よく聞こえない。
もう少し。
人は角を曲がった先にいるらしい。まだ姿が見えない。
フッと話声が止まった。気づかれたか?
重心を後ろにかける。待ってみるが、動く様子がない。
用心しながらまた近づく。
「・・・し・・・な・・・」
その声が聞こえると、俺の心臓は鷲掴みされた気がした。
良子の声だ。普段の声じゃない、泣いてる声だ。
どうして!!?
もしかして、これが呼び出されている現場か?
俺は近づいてもっと耳を澄ます。
「私、何か悪いことした?」
喉を抑えるような声に俺まで悲しくなってきて、それとは別に怒りが込み上げてきた。
「私の何がいけないの?」
堪らなくなって、良子を守りたくて、俺は脚を全速で力いっぱい動かして、影の外に出た。
「良子!!」
影の向こう側の光景は、信じられないものだった。
そして俺は、何故か裏切られた気がしたんだ。
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