僕の間抜けな声が空気を震わせた。それはすぐに溶けてなくなったが、やけに心に重みを残した。
“死喰い人”と“不死鳥の騎士団”――敵対関係にあったあの人に対して、死んでほしくなかったという感情は自分の中には存在しないとは思う。実際、あの方に仕えていた時に『ポッター夫妻を片付けてこい』などと命令されていたなら、なんて
けれど兄の親友であり、ホグワーツでは自信に溢れた姿ばかりを目にしていた僕にとって二人の死は想像し難いものがあるのもまた事実。
「ついに
訊くと、スガワラはこくりと小さく頷いた。兄は特にジェームズ・ポッターとは仲が良かった。兄の一番の友人という座席をジェームズ・ポッターは間違いなく獲得していたのだ。
ああ、兄さんはどれほど嘆き悲しんだのでしょうか。
「我が君……いや、闇の帝王は流石としか言いようがありませんね。やはり、恐ろしい。ジェームズ・ポッターは素行はともかく、首席をとるほどに優れた人物であったというのに」
癖とはおそろしいものだ、と眉を顰める。“我が君”、たとえもう慕う気持ちが僕の中から無くなっていたとしても、数日前まで敬意を込めて呼んでいたその呼称が思わず口から漏れ、違和感を覚えながらも言いなおした。
――そうだ、クリーチャーが帰ってきてからまだ数日しか経っていない。それこそ僕が小さく暗い舞台から身を引いたのなんてほんの数時間前だ。深い敬意からの急激な憎悪。感情がぶつかるのも仕方がなかった。
僕としては兄の関係でジェームズ・ポッターのほうがより濃く頭に残っているが、リリー・エバンズも同様に優秀だったと記憶している。マグル生まれにも関わらず、グリフィンドールの監督生を務めるほどに。
「ちょ、ちょっと待ってくれるか?」
「なんです?」
「“我が君”って、その……」
「…………」
「言いなおしたでしょう? 僕はもうあの方を自分の主人だとは思っていません」
クリーチャーのことがなければ僕は今も変わらず命令を受けるたびに幸福な感情で心を満たしていたのだろう。死ぬことなどなかったのだ。
「あ、ごめん。……ってそうじゃなくて!
「ええ。貴方がたのようなマグルやマグル生まれを一体どれだけ殺し、どのように支配するのかを四六時中考えていたような死喰い人でしたね」
入った時は熱気に包まれていたこの建物が、凍ったような静けさと冷たさを帯びる。何人かはわかりやすく顔を青くし、また何人かは警戒心を隠さずに何歩か後退した。
「賢い判断です。闇の帝王への服従が過去形だったとしても、綺麗さっぱり“理想”が無くなったわけではありません。殺したい、支配したいなどの過激な感情は特にもう持ってはいないとは思いますが、純血こそ正しい魔法使いの在り方だという考えを完全に捨てているわけではありませんから」
しかし警戒するだけ疲れますよ。僕は貴方がたを攻撃しようなど考えていません。
続けてそう言うと、僅かに警戒の色が薄まったが、まあ当然というべきか、初めよりも視線が鋭利になっている。
「なあ、まだホグワーツ生なのに死喰い人だったのか?」
「子供だから入らせない、そんなつまらないことをあの方が言うと思いますか? 僕が死喰い人に加わったのは16歳のときです。あの方は実に頭がよかった。有益な存在であればたとえそれが闇の生物であろうと使い、従わせてみせる」
ヒナタの質問に丁寧に答えてやると、ヒナタはホえぇ、とよくわからない感嘆を吐き出した。
「親世代……スリザリン……最年少16歳で死喰い人……」
「……スガワラ?」
「ま、待って。ちょっと俺これ夢みてんのかな? 思い当たる人物がいるんだけど」
「思い当たる人物?」
な、名前を聞かせてクダサイ……。スガワラが僕のほうへとおぼつかない足取りで寄ってくる。ゾンビとはこんな感じなのだろうか。数時間前、大量の亡者によって僕は湖に引きずり込まれたが、今のスガワラのほうがよっぽどゾンビのイメージと合った動きだ。
「ああ、すみません。まだ名乗っていませんでしたね」
ローブの襟元をただし、彼らに改めて向き直る。“笑顔”は得意だ、嫌というほどパーティーで鍛えられたから。
「ホグワーツ魔法魔術学校スリザリン寮七年生、
(「どうぞお見知りおきを、皆々様?」)