憧れのあの人 5 1/2 


Side:Suzuka Kazamine

 十二月某日。クリスマスまであと少しというこの日。
 私は覚悟を決めました。


◆ ◇ ◆



 覚悟、それは……色無君に何か渡したい。といっても物ではなくて、こう……気軽に渡せるお菓子とか、そういったものを。


「――ということで、よろしくお願いします、師匠!」
「おー」


 師匠である眞井君にお願いして、練習に付き合ってもらうことになりました。……師匠の、お家で。
 現在待ち合わせをして向かっているのですが、男の子のお家に行くなんて初めてなのでかなり緊張してます……。


「そんな緊張しなくても大丈夫だぞ」
「え、で、でも……ご両親とかいらっしゃるでしょうし……」
「共働きだから今はいない。代わりにチビどもはいるけど」
「ご兄弟がいるんでしたっけ……?」
「そ。オレのほかに四人」
「賑やかですね……!」


 明るそうです。そして楽しそう。師匠、優しいし良いお兄ちゃんなんだと思う。


「着いた」
「お邪魔します……」


 玄関で靴を脱ぎ、リビングへ。


「にーちゃんおかえりー!!」


 弟さんかな……? 小さくて可愛い。


「あー!! にーちゃんが女の子連れ込んでるー!!」
「え!?」
「おい晃!?」
「ちがうの?」
「違う」
「えっと……私……師匠、じゃなかった、眞井君にお菓子の作り方を教えてもらおうと……」
「ししょー? にーちゃんししょーなの?」
「ししょー!」


 あわわ……どうしよう……!


「多分オレ師匠……。……オレら今から台所使うからあっち行ってなー」
「はーい!」


 きちんと言うこときいて偉いな……。師匠も良いお兄ちゃん感(?)あるし……。


「じゃ、作るか」
「はい!」


 エプロンを付け、キッチンに並んで立つ。
 色無君に渡すお菓子は日持ちするものが良いとのことで、「材料は持って来ました……!」「お、おう……やる気だな……」マフィンを作ります。
 正確には、クリスマスリースマフィンを。




 さぁ、いよいよ作ります。
 まずはクッキーを。
 バターと卵を室温に戻しておいて、薄力粉とアーモンドパウダーを合わせて振るいます。ボウルにバターを入れて柔らかく練ったら粉糖、塩、卵、バニラオイルの順で加え、ホイッパーでよく混ぜます。薄力粉、アーモンドパウダーの粉類をまとめてラップで包み、冷蔵庫で二時間以上寝かします。寝かした生地きじを型でくり抜き、百六十度に熱しておいたオーブンで十二分焼いて完成です!
 あとはアイシングを作り、クッキーに貼り付ける……慎重に慎重に……!
 よし!
 次にマフィンを作ります。
 バターと卵を室温に戻し、薄力粉、アーモンドパウダー、ベーキングパウダーを合わせて振るいます。ボウルにバターを入れ、柔らかく練ったら、グラニュー糖、卵、バニラオイルの順に加え、ホイッパーで混ぜます。粉類の三分の一をボウルに加え、混ぜ混ぜ。粉気が無くなれば牛乳を入れ、混ぜます。最後にドライフルーツなどを加え、型に均等に入れ、百八十度のオーブンで焼きます。
 あとはラッピングなどを施し、ついに完成です!


「できたな……」
「はい!」


 美味しそうです! 流石さすが師匠……!
 道具を片づけ、晃君と秋斗君(だったかな?)を呼び、いざ実食です。


「……美味しい」
「なー」
「これにーちゃんがつくったの?」
「そうそう。この姉ちゃんと一緒に」
「へー。おれ、あきら!」
「あきと!」


 元気いっぱいで可愛い……! じゃなくて!


「風峰涼花です……。お兄さんと同じクラスです……」
「すーちゃん? すーちゃん!」


 新しい呼び方……もう……「可愛い、です……」「よかった、な……?」小さい子って可愛いな……。


「ただいま〜」


 女の子の声……妹さんかな?


「おかえり愛美」
「うん」


 入ってきたのは可愛らしい女の子。そして、目が合った。


「お兄ちゃんの彼女?」
「違う!」
「違います!」
「じゃあ、何で?」
「クラスの奴にお菓子……渡したいって…………あ」
「……?」


 どうしたんでしょう?


「師匠?」
「お兄ちゃん?」
「……いや、何でも……」
「まぁいいや。眞井愛美です。小学二年生です」
「風峰涼花です……。高校一年生、です……」


 どうしよう……何話していいかわかりません……!


「マフィン作ったの?」
「おう。食べてみるか?」
「いいの?」


 愛美ちゃんもぱくり。


「どう、でしょう……?」
「美味しいと思う。けどこれ……男の子に渡すやつじゃない?」


 ギクッ。私と師匠、二人の肩が跳ねました。


「好きな人、とか?」


 小さくても流石さすが女の子……鋭い。


「クラスの男の子、だよね?」


 はぅっ。


「お兄ちゃんと同じクラスの、男の子…………もしかして」
「あ、待て愛美、」
「色無君……!?」
「…………はい」


 人から言われると恥ずかしいな……。


「すーちゃん、いろにーすきなの?」
「おれたちも、いろにーすき!」


 いろにー……色無君!?
 かなり懐いてるみたいだし、やっぱり凄いなぁ色無君。クラスメイトだけじゃなくてこんな小さな子たちにも好かれて……。


「…………もん」
「え?」
「渡さないもん! 色無君はぜーっったい渡さないもん!!」
「あちゃー……」


 え、じゃあ愛美ちゃんも……。


「わ、私だって渡しません!」


 好き、なんだもん。その人のために練習してたんだもん!
 ――この瞬間、私たちはお互いに直感した。あなたは敵だ、と……。
 頭の中で闘いのゴングが鳴り響いた。カーン!!


「やっぱりこうなったか…………」


 その後、長女の彩音ちゃんが帰ってくるまで、愛美ちゃんと色無君の良いところや凄いところなどを言い合ってました。私の身長のことなどもズバズバ言われて心のダメージが……。
 身長だけじゃなくて胸のことも言われた……ぐすん。やっぱり、いろいろ魅力的なほうが良いのかな……?


「風峰……あんまり気にするな……」
「でも……」
「色無が外見で判断するような奴じゃないのはわかるだろ?」


 それは……わかっているけど、気にしてしまう。


「それに、気にしてたら渡すものも渡せないだろ?」


 師匠……。


「……そうですね!」


 クリスマスに渡すんだもの。気にして……して……られ……ない……うん! よし!
 風峰涼花、頑張ります!


(P.32)



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