色無君とお月見団子 1/2 


Side:Aoi Mai

 今日は中秋の名月。いわゆる、お月見の日だ。オレと弟のあきら(五歳)と秋斗あきと(二歳)はお供えのお月見団子を作るべく、材料の買い出しに行って、今はその帰り道。


「あ! いろに!」


 オレと手を繋いでいた秋斗がそう言って駆け出そうとした。咄嗟とっさに繋いだ手に力を入れる。車通りのほとんどない道とはいえ、危ない危ない。と思ったら、隣を歩いていた晃が駆け出していた。


「色無のにーちゃんだ!」
「こら待て! 急に走るな!」


 慌てて呼び止めるが、聞きゃしない。弟二人に気を取られながら――何せこいつらは、見ていないとすぐにチョロチョロ動く。車は、いつも耳でエンジン音を聞いて注意をしている――歩いていたので、前方をこいつらの大好きな色無雫が歩いていたのに気づかなかったのだ。
 優しくてかっこいい色無のにーちゃんが大好きだもんな、このおチビども。そりゃ、走り出すわ。


「晃くん、こんばんは」
「こんばんは!」


 駆け寄ってきた晃の手をさりげなく繋ぐ。初対面の時こそ小さな子供に戸惑っていたが、今ではお手の物だ。流石さすが色無。順応性が高い。


「こんちは!」
「色無、部活帰りか?」
「うん。葵くんたちは……食料品店からの帰り?」


 色無の視線がオレの持つスーパーの袋に止まる。


「きょうね、おつきみ。おだんごだよ」
「……?」


 要領を得ない秋斗の言葉に、色無は首を傾げる。


「今からお月見団子作るんだよ! あ、色無のにーちゃんも一緒に作ろうよ! にーちゃん、いいでしょ?」


 晃が瞳をキラキラさせてお願いしてくる。


「色無がいいって言ったらな」


 そう言って色無を見ると、なぜかキョトンとしていた。


「え、月見団子って作るの?」


 あ、色無家はお店で買うタイプか。まあ、最近はどこの家もそうだよな。


「うん。せっかくだし」
「……作ったことないや。いいよ、行く」


 少し考える素振りをした後、興味深そうに首を縦に振った。おチビ二人は大喜びだ。……え? 今作ったことないって言った? 一度も?


「ただいまー」


 家に着くと、愛美あいみ(二女。小学二年生だ)がキッチンから顔を出した。


「おかえり! 道具の準備できたよ! えっ色無君!?」
「お邪魔します。愛美ちゃん、こんばんは」


 色無の顔を見つけるなり、顔を真っ赤にする。お前も色無大好きだもんな。夢は色無のお嫁さんだもんな。


「えっえっ!?」
「帰り道で偶然会ったんだよ」
「今日はよろしくね」


 優しくにっこり笑う色無に、愛美は頭から湯気が出そうなほどだ。
 全員で手を洗った後、それぞれエプロンを着てキッチンに立つ。色無にはオレのエプロンを貸した。愛美が色無のエプロン姿にときめいたのは言うまでもない。


「オレはかぼちゃやるから、愛美と色無は米粉と砂糖を量って、ボウルに入れてくれ」
「団子にかぼちゃ……?」


 不思議そうにする色無に、愛美が得意気に答える。


「黄色いお団子作るの!」
「かぼちゃの皮を取って、レンチンして、潰す。それを米粉に混ぜると黄色い団子になる」
「なるほど」


 色無はすぐに理解したようだ。流石さすが、頭が良いだけある。
 愛美と色無が作業する横で、オレはかぼちゃの皮を剥いて小さく切り、レンジで蒸す。より滑らかになるように、フードプロセッサーでマッシュする。フードプロセッサーのスイッチは、手持ち無沙汰にしている晃に押させた。
 秋斗は、大人しく見学。いつもなら、自分にもやらせろとうるさいが、今日は色無にいい所を見せたいのか、いい子にしている。いつもこうだったら楽なのに。色無パワー、恐るべし。


「オレは黄色の団子を練るから、色無は白の団子を練ってくれ。熱湯入れて練るから、火傷やけどに気をつけろよ」
「わかった。やってみるよ」


 ここは慣れないと難しいが、色無はオレの手もとを見ながら練っていく。表情が真剣そのものだ。


「色無君、上手!」
「ほんとだ!」
「じょーずー!」


 チビたちに褒められて色無も嬉しそうだ。口角が上がっている。


「こんなもんかな。うん、色無のもこのくらいの固さでいいだろ。おチビーず、出番だ。テーブル行け」


 固さの確認後、今までほとんど出番のなかった二人に声を掛ける。汚れないように新聞紙を敷いたテーブルに移動する。全員で並んで作業するには、我が家のキッチンは手狭なのだ。


「これくらいにちぎって、丸める」


 やってみせると、色無も同じようにやる。


「こんな感じ?」
「うん、上出来。慣れないと綺麗な丸ってなかなか上手くできないんだけど、流石さすがは色無だな」


 一度できると要領を掴んだ色無は、どんどん作っていく。


「晃、もうちょっと多くしろ。秋斗は兄ちゃんが渡したの丸めろ」


 本当は重さを量った方が良いが、家では基本的に目分量だ。おチビーずに計量はまだ無理だし、なるべく自分でやったほうが達成感がある。失敗したらそれも勉強だ。


「愛美ちゃん、手際がいいね」
「毎年やってるし、お団子はよく作るの」


 流石さすが愛美は手慣れている。好きな人から褒められて顔は真っ赤だけど。


「秋斗、ぺしゃんこにするな」


 基本的に自主性に任せるとは言ったが、それだと煎餅せんべいだ。粘土遊びが好きな晃も、大きさがまばらだけど上手く作っている。わいわいやりながら、団子をすべて丸め終えた。


「最後に、茹でる」


 再びキッチンに移動し、今度はグラグラ湯の沸いた鍋を囲む。背の足りないおチビーずはそれぞれ色無と愛美に抱かれている。次々に団子を鍋に投入し、いい感じに茹だったら拾い上げる。


「はい、出来上がり!」
「……月見団子だ」


 色無、何か感動してる?


「出来立て食べてみ?」
「あっつ! ……美味しい!」


 熱々の団子を摘まんで口に入れると、色無は満面の笑みを浮かべた。


「だろ? ほら、お前らも食べろ。お供えするから、白と黄色、一つずつだぞ」


 それぞれが味見をして、お互いに笑う。みんなで作って食べると美味いよな! 色無も終始楽しそうで本当に良かった。
 またみんなでやりたいな。


(P.39)



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