色の名前も知らないまま、 2 1/1 


Side:Aizawa

 くるくる、じゃりじゃり。一つ二つと円が増える度、真っ白な爪先が汚れていく。やけに熱の入ったアナウンスと喧騒をBGMに、私は一人体育祭を満喫している。といっても自分の出番は随分前に終わっているので、輪を外れて終わるのを待っているだけだ。
 くるん、地面を白が滑ると歪な円がまた一つ。
 運動が苦手な人間にとって、体育祭ほど苦痛な行事はないんだろうな。
 足もとに散らばる丸を消して、また一つ、二つと増やしていく。
 早く終わらないかな、スマホ持ってくればよかった。馬鹿正直に置いてくるんじゃなかった。
 真っ青な空でこちらを見下ろす太陽が眩しい。午後の部に入ったこともあって、降り注ぐ光の鋭さは増してきている。
 本読みたい。
 薄汚れた白が描く曲線が、段々と乱れていく。


「This is an unwarr――」


 ふと、少し離れた集団の中から、流暢な英語が聞こえてきた。何事だろうと遊ばせていた足を止め、声が聞こえた方を見る。目を細めて、少し遠くの人だかりにピントを合わせた。
 玉入れの道具が人を掻き分け、のそのそと歩いていくのが見える。「言語を変えりゃいいってもんじゃないし――」黒や茶色と地味な色が入り乱れる中で、三人ほどのクラスメイトが固まって騒いでいる。
 この一箇月ほどで、一方的にではあるがすっかり見慣れた三人だ。名前は覚えていないけど顔だけは何とかわかる。
 なんだいつもの面子かと一瞬思うが、騒ぐ彼等の画がなんともおかしなことになっていることに気づいて思わず首を傾げた。女の子が何でだか知らないけど倒れかけていて、それを支える男子は呆れた目でもう一人を見ている。
 不揃いな長さの触覚を揺らすそのもう一人。彼はなぜか両手をハチマキで縛られながら、眼鏡の奥にある目を細めてけらけらと笑っている。
 不自然なぐらいに真っ黒な髪は陽の光を浴びて、艶々と眩しいぐらいに輝いていた。


(P.46)



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