溺れるくらい甘かった 1/1
色無君が転校するらしい。
その情報を掴んだ瞬間私の涙腺は崩壊した。崩壊して、そして案が浮かんだ。弟に嬉々としてその案を伝えてみれば「馬鹿じゃねえの……」と言われたので思わずサソリ固めをかけてしまった。マジでドン引きしてた気がする。
◆ ◇ ◆
「おま、まじでやりやがった……」と、膝から崩れ落ちていた弟を思い出しながら新しい学校の制服に身を包み、職員室を目指す。
「失礼します」
職員室にすでにいた、見覚えのある後ろ姿に笑みが
溢れる。「ああ来たね、こっちこっち」と担任らしい人に呼ばれそちらへと進む。不思議そうに振り向いた色無君が、私を視界に入れ目を見開いた。
「あは、またよろしくね」
「色無君」と言って笑いかければ「本当にぃ……?」とひくりと頬を引きつらせていた。色無君のレアな表情に思わず心のシャッターを押した。
◆ ◇ ◆
次は後ろの席かあ。幸せだなあ、と教師から指示された席に座る。誠凛にいたときと違い、色無君の背中を見つめて受ける授業は何とも新鮮で。
はーーーかっこいい無理……色無君しか見えない……二つ前の席の子がガタイよすぎて黒板見えないしほんとに色無君しか見えない……えっ待ってこれ写真沢山撮れるじゃん最高。ありがとう名前も知らない男の子。いい筋肉だと思う。うん。私は色無君派だけど。
とりあえず後ろ姿を一枚、とスマホを構えた瞬間にプリントを回そうと振り返った色無君と目が合った。
「……また写真? ちひろちゃんも飽きないね」
それはそうと授業中。くすりと、少し呆れを含ませて笑った色無君がプリントでポンと頭を――
「……夢か」
頭に落ちてきていたクッションを元の位置に戻しながらため息をつく。
はあ、これから色無君との素敵な留学生としての生活が始まるところだったのに。……ま、たしかに私があんなに英語をペラペラ喋ってる時点でおかしいんだけどさぁ。
――よし、色無君に会いに学校行こう。
おは朝をつけて、支度を始めた。
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