色無君×料理好きクラスメイト 1/2 


Side:Aoi Mai

 ある日の昼休み。オレはいつも通りにクラスメイトの色無と机を向かい合わせて弁当を食べていた。


「葵くんのお弁当っていつも美味しそうだよね」


 唐突に、色無がそんなことを言ってきた。


「そうか? 大したもん作ってねーけど」


 自分の弁当箱を見てみるが、特に変わった物の無い、普通の弁当だ。そういう色無の弁当も、流石さすが運動部と言うか、バランスの取れた美味そうな弁当だ。


「……待って、もしかして自分で作ったの?」
「ああ、うん」


 男子高校生が料理って変か?


「……料理は好き?」
「好きっつーか、必要に迫られて? 嫌いじゃないけど」
「へぇ?」
「ウチ、ビンボーの子沢山で両親も共働きだから、必然的に料理は長子の役目ってワケ。弟たちはまだ小さいから、包丁持たせられねーし」
「大変だね」
「そうでもねーよ? 料理楽しいし、店で食べるより安く済むし、そこそこ美味いし」
「……ねぇ、ケーキは作れたりする?」


 色無は少し考えた後、恐る恐る訊いてきた。


「ケーキかぁ。作れないこともないけど。何で?」
「僕、シフォンケーキが好きなんだよね。でも、自分じゃ作れる気がしなくて」
「シフォンケーキはメレンゲの泡立て方と、いかに気泡を潰さずに卵黄と混ぜるか、がミソだからなー」


 頭の中で、シフォンケーキの工程を思い浮かべる。


「そこまで言えるなら、作れるの?」
「……作って欲しいの?」
「うん」


 目が期待の眼差しでキラキラしている。いつも物静かな色無にしては珍しい。


「シフォンケーキは前に失敗して、苦手なんだよな」


 シフォンケーキが膨らまなくて、スポンジケーキになったんだよな。そう渋るも、


「材料費は出すよ」


 そう来たか。こりゃ引かないな。


「失敗しても知らねーぞ」
「構わないよ」
「オッケー、わかった」


 しゃーない、頑張りますか。


◆ ◇ ◆



 その週の日曜日。色無リクエストのシフォンケーキを焼いた。冷めるまで時間があるので、焼き上がりのシフォンケーキを写真で撮って、色無に送ってやる。
『とりあえず、焼き上がりは良い具合に膨らんでる。後は逆さにして冷ました後、沈まなければOK。ドキドキ』


「――僕もドキドキする」


 オレのメールと色無の発言でバスケ部の連中が何やら勘違いしたらしいと後から聞いた。


◆ ◇ ◆



 翌日。


「ほい、シフォンケーキ。見た目は上手くできたぞ」
「やった! 美味しそうだ」


 色無の顔が今まで見たことないくらいに輝いている。そんなに嬉しいか、シフォンケーキ。


「部活の連中に取られないようにな」
「大丈夫。絶対にあげないよ」


 何か、決意してる。まぁ、バスケ部の連中に見つかったら一瞬で無くなりそうだから、気持ちはわかるけど。


「あっそ」
「次は紅茶のシフォンケーキをよろしくね」
「サラッと難しいこと言ってきた」
「難しいの?」
「今まで成功したことない」
「葵くんなら大丈夫だよ。できるさ」
「……おう」




(そう言われたら、作るしかないじゃないか)


(P.34)



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