リリーサー・ドリップ 2/3 


 日曜日。天気は良好。暑くもなく寒くもなく、過ごしやすいと言える。けれどそんなことはどうでもいい。今日は葵くんがケーキを作ってくれると言っていた日だ。天気なんて気にしていられないよねぇ。
 いつ頃から作り始めるのかなァ。頭の片隅で考えながら部活をこなしていると、テツくんに「機嫌がいいですね」なんて言われた。「流石さすがだねぇ」と返事をする。


「クラスメイトが今日シフォンケーキを焼いてくれるんだよねぇ」


 まァ、食べられるのは明日なわけだけどさ。楽しみなものは楽しみだろ?


「ああ……キミ好きでしたよね。一番好きなのは紅茶のでしたっけ」
「よく覚えているねェ」
「キミの好きな食べ物当てクイズをやった時、全然当たらなくて大変でしたし、まさかキミの口からシフォンケーキなんて出てくるとは思いませんでした。一軍メンバーの腹筋を返してください」
「ええ? 僕が何を好きでもいいでしょぉ? ていうか腹筋を返すってなに……。お前らが勝手に僕のイメージを作っていただけなんだから僕に非は無いしぃ。あっくんだってあんなでっかい図体してお菓子ばっかりもそもそ食べてるじゃんか」
「紫原くんは別っていうか……」
「あっくんばっかりぃ……? もう、今日葵くんが作ってくれる日じゃなかったら怒っていたからねぇ?」


 片方の頬を膨らませてじっとりとテツくんに視線を向ける。「怖くないですよ」と涼しい顔をしたテツくんの手によって抜かれた空気は情けない音を出した。

 そんなこんなで一日の部活が終わり、部室で制服にのんびりと着替えている時、スマートフォンがロッカーの中で一度控えめに震えた。学ランの上着の前を閉めるよりも先にそれを手に取ってすぐにロックを解除する。
 未読1、とマークがついているメッセンジャーアプリを開けば、未読となっていた一件の差出人は眞井まいあおいと、予想通りの人物の名が記されていた。

『とりあえず、焼き上がりは良い具合に膨らんでる。後は逆さにして冷ました後、沈まなければOK。ドキドキ』

 そのメッセージの後に送られた写真にはAngel Food Cake Panシフォンケーキ型に入った褐色。ああ、前に一度失敗したんだったっけ。
 ドキドキする、と書いてあるそれに答えるように小声で「僕もドキドキする」と漏らしてから返答を打ち込む。ざわりと周りが騒がしくなった気がした。

『連絡ありがとう、今日一日部活中もずっと楽しみだったんだ。テツくんに機嫌が良いですねって言われちゃった。少し恥ずかしいけど当たり前だよね、作ってくれる日なんだから。もし沈んじゃったら味って変わるのかな……? 食べたことが無いからそれを食べるのも新鮮でいいかも。でもやっぱりふわふわしたのを食べたいから成功するまで頑張ってもらいたいなぁ……。うーん、僕のほうも緊張してきちゃった』

 急いで制服の前を閉めて、スマホの内カメラを鏡代わりに手櫛で髪を整え、私物を鞄にしまう。財布を確認するとまだ余裕があった。これならまだしばらく下ろさなくてもいいかな。
 ああ、明日が待ち遠しいねぇ。



(「んんんんんん!?」)
(「ドキドキするってなんだ!?」)
(「あの表情は確実に……」)
(「恋、だな……」)
(「デート!? 待ち合わせ!?」)

(……放っておいたらボク怒られますかね)



(P.37)



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