水溜まりは空ばかりで僕たちを上手く映さない 1/6
先までのランガン勝負が嘘のように体育館は静まり返っている。聞こえるのは一瞬前まで駆け回っていた選手たちの荒い息のみ。
「何が起こったのか飲み込めずブザービーターを決めた選手を見つめる者、ゆっくりと転がるバスケットボールを目で追う者、スコアボードの刻む赤が信じられず思考を落とす者――さまざまな人間が自分をメイクアップこともなく、ありのままの人間性をさらけ出してただただ立ち尽くしていた一時停止のようなこの場を動かしたのは勝者の雄叫びでした」
なんてね、と心の中で付け足すと、タイミングよく火神くんが喜びを全身から絞り出すかのように雄叫びを上げた。それを合図にしたかのように、ベンチの面々がコートに向かって弾かれるように飛び出す。
ぐんと腕を伸ばし、親指を上に向けてグッドを伝えるカントクの顔は誇らしげで、そのサムズアップに先輩たちもカントクに向けて同じものを返す。
喜びはしゃぐチームメイトたちから視線を外して涼ちゃんの様子を
窺うと、まだ目の前の現実を飲み込めていないといった様子で呆然と試合終了直後と同じ場所に突っ立っていた。声も出ない、というようなそのさまは見ている僕の声までも奪っていく。涼ちゃんのくせに。
そしてその表情は変わらぬまま、涼ちゃんは不意にその長い目から汗とは違ったものを落とした。生ぬるいであろうそれに気づいたのか、両の手で拭う彼にギャラリーの面々は「練習試合だろ、たかが」とざわめきだす。
……本気で挑んだらあとはもう公式か非公式かなんて関係ないんじゃなあい? まァ、これを機に涼ちゃんは今よりずっと強くなるしぃ……。次勝つのは至難の
業だよねぇ。
「その時は僕もきっとユニフォームを
纏っているからさ。楽しみにしていてよねェ、涼ちゃん?」
笠松さんに蹴られてどうやら“リベンジ”を覚えたらしい彼の涙はもうすっかり止まっていた。人の涙を見るってなァんだか居心地が悪いなァ。
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