ヒトツメgoodies 1/4 


Side:Taiga Kagami

「さ、火神くん。僕の分も頑張ってきて」


 初めてユニフォームをまとったオレの背中をポンと押してにこやかに送り出すのは、どこからどう見てもユートーセーにしか見えない色無。下の名前は雫だったと思う。たしか黒子がそう呼んでいる。


「……マジですんのか? アレ」


 アレっつーのは色無が言ったゴール破壊のことだ。フツーそんなこと考えるか? オレがリングの不整備を発見したら、逆に壊さねーようにしねぇとって考える。いや、オレだけじゃなくフツーの奴ならそう考えるはず。


「うん? 冗談で言ったように見えた……?」


 色無はまるでゼリーのような透明度の高い目を不思議そうにオレに向ける。虹彩こうさいは底に沈んでいる果物のように見えた。……あー駄目だ、マジで疑問に思ってやがる。
 オレのことを見上げているせいなのか体育館の照明をその眼球いっぱいにキラキラと受けて心なしかいつもより明るい表情にも見えた。きっと気のせいだ。


「いや、そうじゃなくて……」
「高く買ってあげれば売り手は当然喜ぶし、贈り物(ギフト)だって大抵高価なものが好まれるよ」


 イタズラっぽく「“何を”とは言わないけどね」とくすりと笑う色無に、意外と好戦的なんだと新たな一面を知った。


「安心してよ、弁償とか言われたら僕が何とかするから。あ、ゴール選択権は忘れずにちゃんと貰ってね」


 何とかするって修理代は安くねーだろオイ。そういえばコイツ前、バイトしてるっつったっけ……? んなこと言ってもたかが高校生(しかも部活で忙しい)がバイトで稼げる金なんてそんなに高くねーはず。……危ないことに手を出していない限り。
 一瞬アレコレと想像しかけて、目の前の誰にでも好かれそうな人当りの好い笑顔を浮かべる色無にいやいやと首を振った。


「もう試合が始まるよ」


 アメリカにいたオレに合わせてくれたのか、「You can do it頑張って.」とヒラヒラと手を振る色無はオレの視界に映る最後の最後までにこやかに笑っていた。


(P.19)



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