美しいこの世界を泳ぎだす 2/3
初めての部活で早速新入生の体を
視た。体が硬い子や体力の無い子、瞬発力に欠けている子――いろいろいたけど中学から上がってきたばかりだし、これくらいが妥当よね。
けれどそんな中で一人、無茶苦茶な数値を持った奴がいた。名前は
火神大我。中学はアメリカらしいし、本場仕込みなだけあって高一男子とは思えない身体能力値を叩き出していた。
そしてもう一人、注目せざるを得なかったのが
黒子テツヤ。
帝光中学校出身なだけあって期待していたのに、目の前に立たれるまで全く気がつけないほどにカゲが薄かった。
しかも身体能力値は火神大我とは真逆の平均以下。話を聞くところによるとレギュラーだったらしいのに、とても強豪校でレギュラーをとれる資質じゃない。彼は一体――?
そんなことを考えながらも練習に移る指示を出そうとした時、体育館の扉が重々しい音を立てて開かれた。軽く一礼して入ってきたのはマネージャー志望の色無雫君。
「総合学習の時間に学級委員長に選ばれてしまって、早速仕事が……。遅れた上に連絡できず申し訳ありませんでした」
少し息を切らした彼は私のもとへ来るなりそう言って頭を下げた。片方だけ伸ばされた顔の横の髪の毛がふわりと空気に遊ばれる。第一印象もだったけど、人懐っこくて礼儀正しそう。イマドキの高校生にしてはよくできた子じゃない?
「いいのよ別に。そんなことだろうと思ってたから。じゃー自己紹介いってみよー」
「じ、自己紹介ですか……」
彼は頭を下げたことでずれた眼鏡を人差し指の背を使って涙を拭うような動作で直した。
纏う雰囲気から勝手に人前は苦手そうだと判断する。
ちょっと意地悪しちゃったか、なんて思っていると、彼は小さく咳払いをしてからみんなの方へ向き直るなり、意外にも緊張した様子もなく誰にでも好かれるような笑顔を浮かべた。
「マネージャー志望の色無雫です。マネージャーは初めてなので至らない点も多いと思いますが、精一杯皆さんをサポート致します。よろしくお願いします」
決して大きくはないものの、よく通る声が静かな体育館に響く。早口になってもいない、相手にきちんと聞かせるためのたっぷりと間を取った自己紹介に、人前が苦手だというイメージは風の前の塵のように消え去った。
大人しいイコール内気とは限らないってことね。うん、やっぱりよくできた子。マネージャーが一人いるだけで選手は練習に集中できるし、きっと彼ならしっかり仕事をこなしてくれるはず。
「よーし! これで新入生も全員揃ったし、練習に入りましょ!」
さーて、この中から何人が本入部してくれるのかしら……?
(P.3)