糖衣錠

無邪気を装ってあなたに触れる不埒なこの手に、どうか気がつかないで。



紅の世界が消滅して、デュセンは居なくなったはずなのに。
まだボクの中にはデュセンがいる。
ボクを抱きしめてくれる、この人には決して言えやしないけれど。

「ヒロくん? どうしたの?」
「………なんでもないよ、アキラさん」

ぎゅうと力を込めて、抱きついたボクに優しく笑いかけたアキラさんは、ボクを抱きしめていた腕の片方で頭を優しく撫でてくれた。
子ども扱いなんて、しないでほしいと思うけれど。

でも、思ったより腹が立たないんだ。

だって、こんなにも無防備にアキラさんはボクに触れる。
そして、こんなにも簡単にボクはアキラさんに触れることができる。
きっと、警戒だってされていない。

アキラさんは、ボクを子どもだと思っているから。

多分、このままボクがキスしようと思えば簡単に出来てしまう。
そして、ボクが少しだけ体重をかけてしまえば。

「……………ヒロくん?」

どさり、と音がしてアキラさんは床に倒れた。
きょとんとした顔でボクを見ている。
茫然、思考、驚愕。
慌てて起き上がろうとするアキラさんを手で押さえつけて、ボクはその唇をふさぐことに決めた。
きっと、真っ赤になってもっと可愛い姿をボクに見せてくれる。
そしたら、また子どものように甘えてみせよう。
あなたは許してくれると思うから。



多分、ボクを侵食したデュセンの影響だと思う。
子ども扱いも、無警戒も、そんなに腹を立てる程のことじゃない。



―――――全部上手く使うことが、できるんだから。



だから、ちゃんと上手く子どもらしく甘えて見せる。
見せるから、アキラさん。



まだ、しばらくはボクを甘やかしてくれる?

Trap/罠
title/ユグドラシル
100727
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