知れば知るほど
欲張りになる。

だけどあたしは多分まだ、欲張りになれるほど彼を知らないだろう。


初めはすれ違っただけ。


歳も知らない
名前も知らない
性格は愚か

声さえ知らない。

…それでもよかった。

そんな関係でも嬉しかったのに。

気がついたら
根拠のない自信と共に
あたしの気持ちは積もっていって


知りたい。聞きたい。
近づきたい。

当たり前のように生まれた感情。


メールはしてる。
話したこともある。
…1回だけだけど。


アドレスは友達づたいに聞いて、彼はあたしの顔も誰かもわからないまま
数日間メールをしてくれた。


…でも、でもさ。

顔分からないってどうなの?
そんな人とメールしてるの気味悪くない?

ちょっと怖くない?


そんな不安と共に次に生まれた感情は

“あたしの事を、知ってほしい。”


メールだけじゃ、声は聞けない。
顔も見れない。

本当に近づけたわけじゃない。

「――あのっ…あたし…」

初めて交わした言葉は
驚くほどにボロボロで
会話だなんて呼べるほどのものじゃなかったかもしれない。

そう考えると、ちょっとは成長したのかなー、なんて思うけど


すれ違ったとき、あたしが声をかけなければ
きっと一日声も聞けない。せいぜい2回姿を見れれば幸せな方だ。

挨拶だって、あたしがしないと返してくれない。
された事なんて一度もなくて。


とにかくあたしが精一杯で近づかなければ
あたしの存在なんて、彼の中には残るはずもなく。


そんなことは分かっているのに。



「――おっ…おはよう!」

心臓爆発寸前で、必死に出来た挨拶の返事は


「、はよ。」


……え、今、目線こっち向きました?

ってくらいに呆気ないもの。


学校には早く来て
必ず朝はここを通るっていう廊下を行ったり来たり。
ドキドキとうるさい心臓に負けないように
必死に自然を装って、やっと姿が見えた頃には

あたしは遅刻ぎりぎりだった。

だけどそんなのどうでもよくて。


ただ一言、伝えたい言葉を

今日は“伝えたかった”に変えないように
あたしなりの、精一杯だった。


話しかけるには話題が必要。
上手く話題を見つけるのはまだ難しいけど

挨拶だったら自然に言葉を交わせるから。


必死に言い聞かせて、笑顔で伝えようって言い聞かせて

せっかく出来て、嬉しいはずなのにな。

顔も知られてなかった頃よりも

ずっと幸せなはずなのにな。


「……はぁ、」


一秒にも満たない、呆気ない結末をぶつけられたあたしは

今日も小さく肩を落とす。


知れば知るほどわかったこと。



近づけば近づくほど、遠くなる。



…もう近づくの、やめようかな。

でもこんな瞬間は、

やっぱり君を、好きだと思う。



‐fin‐


投票ありがとう
ございました◎!








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -