「川村さんもLBX、やるの?」
同じクラスの鳥海さんが私の頭上から声を掛けてくる。
私とはクラスメイトという以外、接点の全くない女の子。
最近はLBXは玩具として普及して、子供の間ではやっていない人の方が少ない。
LBXを操作するのに必須のCCMなんて、今や誰だって持っている。
彼女の質問をなんだか的外れだなと受け止めながら、私はゆっくりと顔を上げた。
「ええ。
私、結構強いのよ?
鳥海さんもLBX、やるんでしょう」
「う、うん。
始めたばかりなんだ。
そ、それでね、」
彼女はおずおずと言ったふうに私をまっすぐに見ると、緊張した面持ちで話を切り出した。
「私にLBX、教えて欲しいの!」
教室中に響いたんじゃないかってくらい大きな声。
お互いにぽかんとして見つめ合う。
私と彼女の始まりはなんだかちょっと間抜けだった。
***
鳥海ユイの特徴を上げろと言われれば、一も二もなく人助け好きだと言うことが挙げられる。
とにかく何かトラブルがあると走っていって、巻き込まれて、共倒れなんてことはよくあった。
友達も多かったけれど、不思議と家で一緒に遊ぶような仲の友達はいなかったようで…所謂親友的ポジションの友達はいないらしい。
LBXを教えてくれと頼み込んできた彼女にキタジマに向かう途中、何の気なしに私は聞いた。
「鳥海さんって、なんで人助けばっかりしてるの?」
「んーとですね、性分っていうのかな? そんな感じなの。
助けないといけないと言いますか、昔からちょーっと困ったタイプの世話の焼ける人がいたの。
まあ、お父さんなんだけど」
「へえ」
にこにことした幸せそうな笑顔で、意外にもあっさりと答えを言われてしまった。
なるほど。家族がそうならそうもなるかもね。
私もあっさりと納得して、それから色々な話をした。
家族のことや勉強のこと、始めたばかりのLBXのことにこの前食べたお菓子のこと。
彼女は嬉しそうに、興奮したようにも見える笑顔でどんどんと私に話題を振って来た。
話してみると、鳥海さんは本当に噂通りの元気で明るくて…ちょっと変な女の子だった。
「こんにちはー」
「おー、いらっしゃい。アミ……って、今日はバンやカズと一緒じゃないのね」
「クラスメイトなのよ。
鳥海さん、この人は沙希さん。ここの店長の奥さんよ」
「はじめまして、鳥海ユイです!」
「ああ。はじめまして。
いやー、元気な子だねえ」
沙希さんはそう言って、がしがしと乱暴に鳥海さんの頭を撫でた。
初対面の相手になんてことを…と思わなくもなかったけれど、沙希さんなりに彼女の緊張をほぐそうとしたのかもしれない。
「わわわ…!」
ぐりんぐりんと頭を左右に振られる彼女を横目に、私は強化ダンボール内にクノイチを放った。
それから、なるべく大きな声で彼女を呼ぶ。
「さあ、早速バトルしましょう!
実戦から学ぶのが一番よ」
「は、はいです!」
同じくらい大きな声で鳥海さんは元気に返事をした。
***
「ダメダメだわ。ダメダメ過ぎるわよ」
「あうう〜。そうだよね。自覚はあります…」
「ここまで下手な子も見たことないわね」
正直に言うと、鳥海さんの操作技術は目も当てられない酷さだった。
入力スピードが遅い。地形認識が甘い。機体性能を十分に理解していない。
まあ、他にも色々。
始めたばかりにしても…思わず、「諦めたら?」と遠慮のない子なら言い出しかねないレベル。
それでも本人は至極真剣。
だから、私も客がいないからと付き合ってくれた沙希さんも根気よく教える。
「もう鳥海さん鳥海さんって言うのも面倒だわ!
今からユイって呼ぶからね。
ユイも私のこと、アミって呼びなさい。いいわね!」
「はい! アミ先生!」
もう、返事は一人前なんだから。
私たちの友人関係は変なもので、師弟関係のようなものから始まった。
それからユイは…うーん、段々と上手くなっていったと思う。
まだまだだけれど。
しばらくして、私はユイをバンとカズに紹介することにした。
二人とも強いし、ユイにとっても良い勉強になるはず。
休み時間。
バンとカズ、それからユイを私の机に呼んだ。
ユイは「あわわ…」と変な声を上げて私の背中に隠れてしまう。
案外彼女は恥ずかしがり屋で、普段のあの人助け癖はどこに行ったの? といつも言いたくて仕方がなくなる。
私は背中の彼女を指差した。
「知ってると思うけど、最近私がLBXを教えている鳥海ユイよ。
私の不肖の弟子」
後々、「あの紹介はないよー」とユイに冗談混じりに言われた紹介を彼らにする。
バンは苦笑して、カズは呆れたような顔をする中、恥ずかしいと私の背中に隠れていたユイがぴょこんと顔を出す。
その顔には緊張が滲んでいたけれども、瞳はまっすぐに二人を見ている。
そして、すうっと息を吸うと元気で大きな声を出した。
「はじめまして! 鳥海ユイです!」
彼女はバン達と友達になるために、明るく元気に笑った。
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