よく見る夢がある。

私はどこか海とか泉とか…そういう場所にいて、ずっとずっと沈んでいく夢。

悪夢かと聞かれると、多分そうじゃないと答えると思う。
人に話したことがないし、言う気もあんまりないので分からないけど…。

沈んでいくだけで浮き上がることのない夢。
私は時々、口から泡を吐きながら、あるいは遠くになっていく光に手を伸ばしながら沈んでいく。

底に辿り着いたことはない。
おそらくそんなものないのだろう。
遠くになっていく光がいつか見えなくなったとしても、多分底になんてつかないんだと思う。

夢から醒めるとき、いつも夢の中で眠くなる。
とろんとろんとしてくる意識の中、もう醒めるのかと思う。
夢なのに、変なの。

醒める前、今日は空みたいに青くて広い気がしたから、海の中を沈んでいるのかなと想像する。

起きよう。
誰が待っていてくれるのかわからないけど、起きよう。
この優しい海から。


「…あ…」

夢から醒めると、そこは公園のベンチだった。

ものすごく暑い。そっか、今は夏だと思い出した。
日陰のベンチを選んで昼寝したんだったということも思い出して、額の汗を拭った。

「………」

私の手にはクイーンとそれからミネラルウォーターのペットボトル。
しばらく考えてから温くなったそれのキャップを開けて、一口飲んだ。

「ぷはっ」

温くても水は水。
喉を通る感触が少しだけ嫌だけど、飲んでしまえば喉が潤った。
たぷんたぷんとペットボトルの中の水が揺れる。

それをぼおっと見つめている。
ちょっとだけ、夢の中の水に似ている気がした。

「うー…あー…帰ろう」

パソコンを常時つけている関係でいつも真冬並みに寒いは言い過ぎだけど、それなりに寒い家に戻ることにする。

そういえば、私は冷えた体を温めるために外に出てきたんだっけ。

気怠い動作でベンチから立ち上がる。
クイーンをかばんに、ペットボトルはそのまま水を揺らしながら、私は帰ることにする。

時折大きく揺れる水の音が響く。

まだもう少し…夢の中で沈んでいたかったなあ。

「おやすみ。私」

小さく呟く。
誰にも聞こえないように。

夏の空を見上げる。
大きな入道雲と青い空。誰かの瞳を想い出す。
あの瞳は夏の空にもよく似ていると私は、ぼんやり思った。


おやすみ。私。
今はまだ、もう少しだけ青い世界に沈んでいよう。


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