*本編とは違う設定のお話となります。
ユイとヨルは入れ替わっていませんが、ユイは死んでしまっています。







「友達になりたい子たちがいるんだあ」

アーモンド色の瞳を輝かせ、にこりと天使のように微笑みながら…鳥海ユイは言った。
彼女の服の裾を掴みその後ろを歩きながら、私はゆっくりと彼女の視線を追う。
そこにはプラモデル屋。
中には三人の仲の良さそうな子たち。

ああ、あの子たちと遊びたいのか。

それは彼女なら叶うだろうと思いながら、反面笑いそうになりながら見ていた。

届かないものを見るような切なげな眼とその笑みを私はよく覚えている。


***


朝、先生から隣のクラスの子が亡くなったことを聞かされた。
交通事故らしい。
その子は元気な明るい子で俺も何回か話したことのある子だったけれど、友達と言っていいのか微妙な関係で悲しいけれど悲しみ切れなかった。

その次の日、いつも通りキタジマに行く途中に女の子を見かけた。
その子はこの辺では見かけたこのない子で、外国の人みたいな色の髪と目をした子だった。
彼女は手元のメモと地図を何回も見直していて、見るからに迷子という感じだった。

「ねえ。君」

「?」

俺が近づいて声を掛けると、彼女は不思議そうな顔をして俺を見上げた。
俺はアミとカズよりも身長は低いけど、近くで見るとその子は俺よりも小さかった。
低学年かな?

「どうしたの? 迷子?」

「え…と、はい。その、ここに行きたくて…」

彼女は持っていたメモを俺に見せた。
住所と名前が書いてあって、住所はすぐ近く、名前は……

「あ、キタジマだ」

「し、知ってるんですか?」

「うん。俺もこれから行くところなんだ。
案内するよ」

俺がそう言うと彼女はしばらく考えた後、こくんと控えめに頷いた。

「よろしく、お願いします」


小さい子と歩くのって意外と大変なんだなあ。

彼女と歩いていて、まず初めに思ったことはそれだった。
とにかく歩幅が違い過ぎて、お互いに合わせようと思うから変なふうになるのだ。

「俺、山野バンって言うんだ。君は?」

「私は…雨宮ヨルです」

視線をあっちにこっちに彷徨わせながらヨルは答えた。
人と話慣れていないような感じがする。

「見かけない顔だけど、ここらへんの人じゃないよね」

「うん…あ、はい。
橋の向こうに住んでます。
この辺は……時々来ますけど、ちょっと迷っちゃって…」

「まあ、この辺はちょっと入り組んでるからしょうがないよ」

俺がそう笑って言うと、ヨルは少し首を傾げてからこくんとまた頷いた。

うーん。困った。
こういうタイプの友達があんまりいたことがないから、正直接し方がわからない。

何か話題を…と探していると、そういえば橋の向こうにだってプラモデル屋はあるはずなのに、なんでわざわざキタジマを選んだんだろうと疑問に思った。
そのことを聞いてみると、ヨルはちらっと俺の顔を見てから答えてくれる。

「その、LBXが壊れてしまったんです。それで直せないかなって。
人に…紹介してもらったんです。
その人もちょっと前まではこっちに住んでて、ここが良いって」

「そうなんだ…となると、俺もあったことあるかもしれないね」

「あ……そうかも、しれないです」

他愛のない話をしていると、キタジマが見えて来て、俺から先に店内に入った。
そこには先に来ていたアミとカズがいて、「よっ」とカズが俺に気づいてくれた。

「バン、待ってたわよって……その子は?」

「ああ、うん。
キタジマに来る途中で会ったんだ。
LBX、修理したいんだって。
アミ、店長いる?」

「おお。呼んだか? バン」

アミに言ったのが聞こえたのか、店長がレジの下からひょっこりと顔を出した。
背中でヨルがびっくりしたのが少しだけ見える。
まあ、確かにびっくりするけど、それ程かなあと思ってしまう。

「あ、その…LBX修理をお願いしたくて…」

「お、いいぞ。
とりあえず、そのLBXを見せてくれないか?」

「は、はい」

ヨルは持っていた鞄の中から、そのLBXを取り出す。
アミやカズも興味があるのか、近くまで寄ってきて覗き込んだ。

LBXはクイーン。
フレームにはひびがいくつも入っていて、右腕は半分から先がなくなっている。

「あの、直りますか?」

「直らないことはないが…これはどうしてこうなったんだ?」

「え、と…持ってた人が事故に遭って、それで……。
あ、あの、その…それ、私のじゃないんです。
本当は人のLBXで、修理を頼まれたんです」

しどろもどろになりながら説明し終えると、ふうと息を吐いた。
店長は「どうにかなりそうだな」と言って、カタログや部品を取り出して何かメモを取ってから沙希さんを呼んだ。

「店番しててくれ。裏から部品を取ってくるから。
修理には時間がかかるから、バン達とLBXで遊んでてくれ」

「わかったよ、あんた。お、新しいお客さん?
こんにちは」

「こ、こんにちは!」

元気よく挨拶したかと思うと、沙希さんはじーっとヨルを見つめ出した。
ヨルが緊張していくのがよくわかる。
沙希さんはその頭に手を置くと、ポンポンと手を跳ねさせながら訊いた。

「小さいわねー。あんた、名前は? いくつ?」

「あ、雨宮ヨルです。
歳は十一歳です。この前……なりました」

「ん?」

十一? え? 小学五年?

「同い年かよ!」

「み、見えないわね……」

「よく、言われます」

「それにしたって小さいね。
あんた、ちゃんと食べてる?」

沙希さんはそう言うと、答えを聞く前に店の奥に引っ込んでしまう。
どうしたもんかと思っていると、アミがヨルに近づいてその顔を覗き込んだ。

「私は川村アミよ。よろしく、ヨル。
同じ年なんだから、敬語はいらないわ」

「よろしくお願いしま……よろしく」

「ええ。
あ、こっちがカズ。青島カズヤ。
顔は悪いけど、良い奴よ。
仲良くしてあげて」

「なんで、アミが俺の紹介してんだよ」

「いいじゃない。別に」

「そうそう。細かいことは気にしなさんな。
男だろ? カズ」

いつの間にか帰ってきた沙希さんはそう言ってアミを援護しつつ、何故かその手に持っていたアンパンをヨルの口に押し込んだ。
あ、ちょっといいなあ。

「?」

「たくさん食べて大きくなりな」

そう言って、次に紙パックの牛乳を渡す。
ヨルはそれを戸惑いながら受け取ると、アンパンを飲み込んでからストローでちびちびと飲み始めた。

なんか、ずっと小さい子を見てるみたいだなあ。

そう思っていると、アミたちがLBXを取り出してバトルを始めるみたいだ。
俺もやりたかったけど、そういえば店長からLBX借りてない。
しょうがないのでフィールド内を覗き込んでいると、隣でヨルも牛乳を飲みながら同じように覗き込んでいる。
不思議そうに。
初めて見るみたいに。
青い目でじいっと。

「バトル、見たことないのか?」

「うん。私の家、テレビもあまり点けないから。
今までプラモデル屋にも来たことなかったんだ」

「へえ。CCMは?」

「……持ってない」

今はLBXもCCMも持ってない人はほとんどいないのに珍しい。
人のことを言えないけど、さすがに見たことがない人は初めて見た。
アミがその視線に気づいたのか、にっこりと楽しそうに笑ってから、隙をついて容赦なくカズのウォーリアーをブレイクオーバーさせると言った。

「やってみる?」

カズが悔しがっているのを無視して、ヨルにそう言う。
ヨルは何回も瞬きして、じっくり考えてから慎重に、慎重に頷いた。
青色をきらきらと輝かせて。

「………うん」


その目は心の底から楽しそうに、アミの目をしっかりと見つめていた。




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