「アーミちゃん!」

「ちょっ…ユイ! 重いから! どきなさい!」

廊下でアミちゃんの背中が見えたので、思わず飛びついた私をアミちゃんが体を振って下ろした。
私は「やー」とか「うわー」とか言いながら、その背中から手を離す。

ユイらしくはちょっとスキンシップ過多なぐらいがちょうどいいのだ。

「肩が凝るから飛びつくのは止めなさいって」

「だって、ちょうどいい身長なんだもん」

「お前はちいせえからなー」

「俺より小さいよね。ユイって」

小さい、小さいと言いながら、バン君が自分の身長と私の身長を比べる。
手で測ってみるとやっぱり二、三センチ私の方が小さい。

皆と同じものを食べて、同じように生活しているはずなのに、私はなんでこんなに小さいのか。
背の順に並ぶと絶対に前の方になる。
ひどいと一番前になるのだ。

「小さくないよ。普通、普通」

「いやいやいや。お前、今の背の順一番前だろ」

「帽子入れるとね、あと二センチは伸びる!」

そう言って胸を張るけども、頭上からチョップが降ってきた。
カズ君のチョップだ。
ぽすんと軽い音を立てて、私の真っ白い帽子がつぶれる。

「おりゃ!」

「あうっ!」

あと、ちょっと痛い。
ぽすん、ぽすんと何回もチョップされてしまう。
ああ! 身長が余計に縮むのです!

帽子を押さえながら、私は首を左右に振りながら言った。

「やーめーてー」

「カズ。そろそろ止めなさいよ。
本当に縮むから。ただでさえ、小さいのに」

「ち、小さくないよっ!」

「大丈夫だよ、ユイ。
まだまだこれから伸びるって!」

「頑張れ!」とチョップされる私をバン君が応援してくれる。
応援してくれるのはいいんだけど、具体的には何を頑張れと言うのだろうか。

牛乳を飲めばいいのか、魚を食べればいいのか、あとは…寝るのは駄目だ。あれだけは出来そうにない。

私の生活を鑑みると、なんだか私の身長が伸びないのは当然のように思えてくる。
昔から成長が人より遅いのは、もしかしたら当然のことなのかもしれない。

「お母さんは身長高かったから…だいじょーぶ! なのです!
ありがとうなのです。バン君」

「まあ、いっぱい食べてでかくなれよ」

「えー。太る」

「ユイはやせ過ぎ。もっと太りなさい」

アミちゃんが私のお腹をもにゅもにゅと揉みながら、カズ君のチョップ攻撃から助け出してくれる。
助け出された私はチョップされていた部分を撫でつつ、改めて自分の身長を確認する。

それがよっぽど痛かったと思ったのか、苦笑しながらバン君が頭を撫でてくれた。
私の身長はちょうどいいのか、よく人に撫でられる。
お姉ちゃんもそうだった。
逆はないけれど。
まあ、もう出来ないのだから何も文句は言えないか。

小さく息を吐く。
私が人を見ると、常に人を見上げるようになってしまう。
この位置がずっと怖かった。
お母さんの私を見る目とちょうど目が合うのだ。
薄暗い視界でもぎらりと光るあの瞳がいつも怖かった。

今見上げるとバン君の優しい色の瞳と目が合う。
それがお姉ちゃんのアーモンド色に重なって、少しだけ体が軽くなる気がした。

「あー…やっぱり、痛かったのか?」

「違うよ。
楽しいなーって。こういう時間がいつまでも続けばいいのになあって」

続いたら続いたで苦しむくせに。
私はバン君の問い掛けに笑顔で答えた。

それでもこの時間が少しでも長く続けばいいと、私ではなくなった後でもそうあることを、確かに思ったのだ。



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