06.噂の転校生 (7/76)


昼休み。
俺が廊下からバンとアミを呼ぶと、ついでにユイも付いてきた。

こいつもどうやら噂の転校生が気になるらしく、興味津々という顔で俺の隣に立っている。
あの戦闘機出現で騒がしい教室で、気持ちよさそうに寝ていたくせに。

「俺らの教室からも見えてたぜ。戦闘機登校」

俺がクラスでの出来事をバン達に報告すると、隣のユイがうんうんと頷いた。

「お前、寝てただろうが」

「う! 気づいてたの?」

「あの中で寝てたら、逆に目立つぜ。
気づかない方がおかしいだろ」

少しキツイ言い方になったなと言った後で後悔したが、当のユイは「まあ、そうだよね」と納得したようにまた頷いた。
その顔には、いつもの何が嬉しいのかよくわからない笑顔。

こいつのこっちがどんなに態度が悪くても、決して怒ることがないのはユイの良いところだと思う。
時々怒れよ、と逆に言いたくなるけど。

「夜更かしでもしたの?」

「うーん、ちょっとね。でも、もう大丈夫!」

大袈裟な動作でVサインすると、アミは「良かったわね」とユイの頭を撫でる。
こう見ると、本当に同じ年なのかと疑いたくなる。
ユイも当然のようにそうしているから、余計に疑いたくなった。

「そう。それでね、海道ジンのことなんだけどなんか変わっててさ、クールっていうか先生が自己紹介しろって言っても『別に話すことはありません』って。
休み時間にリュウが話し掛けても完全無視。
ねえ、バン?」

「う、うん…」

アミの話を聞く限りクールっていうか、興味ありませんって感じだな。

「それって、私たちに興味ありませんって感じだね」

俺と同じ意見を持ったらしいユイが口に出していた。

そこは思っても口に出すなよ。

「あ…」

「ん? あ、来た」

バンの視線が俺やユイではなくその先に移動した。
俺たちもその先を追うと、噂をすれば影、海道ジンだった。

スタスタと通り過ぎたそいつは俺たちに目もくれない。

その様子を目で追っていた俺はふと、隣のユイの唇が動いているのが見えた。
無意識なのか、ユイは相変わらずぼけっとした顔をして海道ジンの姿を追っていたけど…。

「ねえ、なんか声掛けにくい感じでしょ?」

「うん。声掛けにくい」

真っ正直にユイが言う。
アミとお互い頷き合って、「でも女子にはモテそうだよね」とかなんとか話し合っていた。

「まあ、転校してきたばかりだし、そういう奴もいるさ。
それより、今日の放課後…」

俺はそこまで言って、ユイには聞かせられないなと思い、アミに目配せする。
アミは分かってくれたのか、あえて『アングラビシダス』『Blue Cats』のことは伏せようと思ったとき、突然ユイが右手を挙げた。

「思い出しました! 私、次の授業の準備してきます」

そう言って、教室にダッシュで入っていく。
バタバタとしていたが、ユイなりの配慮なんだろうな。

「…あー、アミ、それで今日の放課後…」

「うん。分かってる。『Blue Cats』でしょ? アングラビシダスの情報も聞かなきゃだし」

放課後の予定を確認しながら、俺はさっきのユイを思い出していた。



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