40.Shall we dance? (41/76)


「とりあえず、私が出るのは決定事項として…あと一人は誰が出ます?
何をしてくれてもいいですし、どうせなら私の妨害をしてくれても構いませんよ」

「あ、俺が出るんだ―…」

「イエローさん以外でお願いします」

「何故なんだな!?」

……。

全く協力する気がないようだが、あれはあれでいいのだろうか…。

「あっちはやっぱりイオが出るのね」

「こっちはどうするんだ?」

「僕が出る」

「ジンは彼女と戦ったことがあるものね。
わかったわ。
あとは私とカズだけど……オタレンジャーの誰かを相手にすればいいのよね?
パンドラで接近戦に持ち込んで、一気に終わらせるのが私はいいと思う」

「でもティンカー・ベルも厄介だぞ。
フェンリルで遠距離から援護した方が良くないか?
ジンは接近戦が得意なわけだし」

「それもそうね…。
わかったわ。
絶対に勝ってきなさいよ!」

アミ君の言葉に僕たちは頷く。
あちらも結局色々と騒いだ後に、オタピンクとイオが出ることになったようで、お互いにに細かく打ち合わせをしていた。

さすがに会話は聞こえないが、その様子を眺めていると不意にイオと目が合う。
また、彼女は笑う。
見慣れた笑顔は見れば見る程完璧であり、友好的な雰囲気が滲み出ている。
ただし…他人を安心させるような、そんな笑顔ではない。

既視感があるような、気がした。
しかし、それもすぐに記憶の彼方に靄のように消えていく。
鳥海ユイとイオ。
二人のことを疑問を持って考え出すと、嫌な違和感だけがこびりついて離れない。

まるでこの違和感と彼女たちは一対であるかのように。


■■■


「なるほど。遠距離、近距離でバランスがいいわね。
手強そうで何よりだわ」

「はっ。前に俺にも負けたくせに、何言ってるんだよ」

「まあ。確かに負けてるけど、勝ったのだってギリギリじゃない。
フェンリルが現れなければ、あの場で色々丸飲み出来たのに…本当に残念だったわ」

「お前…!」

お互いに向かい合い、Dキューブの前に立つ。
実況が僕たちの戦績やプロフィールを簡単に説明する中、イオはふざけた表情で隣のカズ君を煽った。
気紛れで甘えたがりの猫のように、少し魔的にクスクスと笑う。

彼はイオに負けかけたと言っていたことを思い出し、余計に怒りが込み上げてくるのか、目を吊り上げ怒りを露わにしていた。
僕はといえば、イオの隣にいるオタピンクという人の熱視線を受けながら、彼女を観察していた。

そのべったりと張り付いた笑顔。
海のように深い青い瞳。
透明な声がそれとは似合わない嫌味を口にするのを聴く。
別段、不審なところはない。
そもそも普段の動作から何かを悟られるような、そんな間抜けなことを彼女はしないように思えた。

ならば、バン君が言っていたメタナスGXでのことは…もしかしたら、彼女の思惑の一つなのかもしれない。
何故、負ける必要がある。
不正行為が出来るのならば、そもそも相手の動きを止めるなどして、問答無用で奪ってしまえば良かったのだ。
しかし、彼女はそれをしなかった。
回りくどくバトルを行い…それどころか、新たなLBX・フェンリルの必殺ファンクションを受け、ブレイクオーバーまでした。

それは、まるで…フェンリルの性能を彼にカズ君に確かめさせているような…。
そんな印象を僕は覚えた。

「そもそも! お前は何がしたいんだよ!」

「言うわけないでしょうが。こんちくしょうめ」

「口悪っ」

「お互い様よ」

「………」

この応酬からはそうとは思えないが…。
それでもカズ君は嫌悪感を露わにしているが、イオの方はそうでもないらしいなと僕は感じた。
主観に過ぎないが、楽しそうだ。彼女はいつも楽しそうではあるけれども。

そうこうしている間に、実況の方でLBXをフィールドに放つように指示される。

無骨な着地の音が響く中、唯一のストライダーフレームである彼女のLBXがふわりと着地する。

『さあ! それでは、バトル開始です!』

「先手必勝!」

まずフェンリルが誰よりも先に動く。
遠距離型のフェンリルは距離を取る必要があり、彼を先行して動かせるのは作戦の内だ。
彼がライフルによって牽制するのを僕はプロトゼノンによって援護する。

「むう。任せました!」

「任せなさーい! ジンくーん!」

意外と息は合っているようで、ティンカー・ベルは助走をつけてプロトゼノンの上を飛び越える。

「! しまった!」

そのまま跳躍の勢いで、その独特の武器からライフルの銃身を出す。
僕も追いかけようとするが、ビビンバードXからの弾幕を防いでそちらにまで手が回らない!

「遠距離でフェンリルに敵うかよ!」

「あら。それは分からないでしょう?」

フェンリルにライフルを構える彼女は余裕の微笑み。
だが、フェンリルの方に遠距離は一日の長がある。

「心配はいらない、か…」

ふっと僕は少しだけ笑う。
信頼とはふとした瞬間に感じるものらしい。
だからといって、イオ相手に油断は出来ないが…。

「ジンく〜ん! 私を受け止めて〜!」

弾幕が止んだかと思えば、ビビンバードXがこちらに走ってくる。
腕を広げて…まるで無防備なその姿に僕は、

「…必殺ファンクション」

《アタックファンクション ブレイクゲイザー》

問答無用で必殺ファンクションを叩きこんだ。

「いやーっ! でも、ジン君にブレイクオーバーされるなんて、なんて…素敵なの!」

「あららー…。何故、突っ込むかなあ」

彼女はそう言いつつも、ライフルによる攻撃を止めはしない。
多くはフェンリルの火力によって落とされるが、ティンカー・ベルは自身のライフルをおそらく弾除けにしか使っていない。
その証拠にフェンリルへの軌道が若干ズレている。

「必殺ファンクション!」

《アタックファンクション ブレイクゲイザー》

僕は武器を持ち直すとティンカー・ベルを背後から攻撃する。

「!」

必殺ファンクションが直撃する直前、ティンカー・ベルはそれを避けなかった。
武器をこちらに向ける動作はしたけれども、プロトゼノンの攻撃を受ける。
その機体は高く空を飛び、煤けた姿がもうもうと立ち込める煙の中から姿を現す。

「必殺ファンクション!」

《アタックファンクション エレクトルフレア》

下に落ちてきたところをフェンリルで狙い撃ちすればいい。
そう考えていたら、落下するよりも先にライフルからドライバーへと得物を変え、青い電撃を纏ったそれが勢いよくフェンリルに向かって投げられた。

「なっ! フェンリル!」

ドライバーはフェンリルの弾丸をすり抜け、器用にもその胸部を貫く。
しかし、ティンカー・ベルの武器はそれほど威力と重量はない。
的確に相手の急所を突くために軽量化と鋭利さを求めていると、彼女と一度戦った僕は分析している。
あの必殺ファンクションも単体での威力は弱い。

「このぐらい…!」

ハンターから進化したフェンリルならば大丈夫だと、楽観的に僕は考えていた。
次の瞬間、貫かれた胸部から稲妻のような閃光がいくつも暴れる龍のように這い出しフェンリルを、喰べた。

バチバチと不穏な音を出しながら、フェンリルがブレイクオーバー独特の音を発した後、地面へと伏した。



prev


- ナノ -