37.隠された思惑 (38/76)
ティンカー・ベルを退けたのはいいものの、メタナスGXのデータは全て消去されてしまった。
オタクロスさんが調べたけれど、イオの侵入経路も分からずじまいだった。
オタクロスさんが解読コードを取り戻す方法を説明しているとき、私はそっと鞄からCCMを取り出した。
何の連絡もない。
当たり前のことだけど、私はため息を吐きそうになって、幸せが逃げると思って止める。
人に言ったことを自分がしちゃいけないよね。
危ない。危ない。
「『アキハバラキングダム』…」
解読コードを手に入れるためには、それに出て秋葉原のハッカーの皆さんに頼むしか道はないらしい。
でも大会の説明をされると、私の役目というのはますますない気がしてならない。
きっと、私は参加しないだろう。
その日は珍しく予定も入っているし…。
私が唸っていると、隣の仙道さんと目が合う。
挨拶しようかと迷っていると、何故か舌打ちされてしまった。
「とろそうな顔してるねえ」
「あ、はい」
思わず返事をすると、余計に嫌そうな顔をされた。
ジン君と違ってというのもなんだけど、嫌いだから関わってくるなというオーラがすごい。
カニ歩きで仙道さんの傍からアミちゃんの方に寄る。
彼女は少し私を見て苦笑しながら、どんどん進む話に耳を傾ける。
仙道さんのことは気になったけど、単純に私を生理的に嫌っているだけのようなので放っておいて大丈夫そう。
いざとなったら、やり方は色々あるもの。
うん、大丈夫。
■■■
『アキハバラキングダム』前日。
ユイからメールが来た。
《明日はお父さんと大事な用事があるので、行けないのです!
午後には合流できると思うけど、応援も参加も無理なの。
ごめんなさい。
午後には必ず行きます! ユイ》
「大変ね。ユイも」
私はそう言いながら、ユイに返信を打つ。
《わかったわ。
アキハバラキングダムのことは私たちにまかせて!
お父さんによろしくね。 アミ》
ユイは明日ダメのね…とは思ったものの、みんなで相談してユイは参加させないことになっている。
残念ではあるけど、ユイは私たちの中では弱い方だ。
参加を承諾するわけにはいかなかった。
本人には言っていないけれど、これはこれで良かったかもしれない。
そして、『アキハバラキングダム』当日。
なんと、あの海道ジンが私たちの仲間として参加してくれるという。
カズは渋っていたけれど、私は良いと思う。
それにバンが認めているし、彼の目には確かな決意がある。
結局、私とカズ、ジンでチームを組むことになり…私たちはジンにメタナスGX内でのことを説明した。
「イオが…現れたのか?」
「ええ。私たちの敵だって言ってたわ」
「そうか…。他には何か言っていなかったか?」
「他? ええ、と…そうね…」
「あ! 俺、イオについて気になることがあるんだけど…あいつ、オーディーンを見て山野淳一郎製って言ったんだ。ちょっと気にならないか?」
そういえば、そんなことを言っていたような…。
「それがどうしたんだよ」
「いや、なんでわかったのかなって…」
「そんなのお前が山野博士の息子だから、だろ?
特に変なところねえじゃん」
「そう言われれば、そうなんだけど…。
あ、あとさ、イオはなんでフェンリルの必殺ファンクションを防がなかったんだろう?」
バンのその疑問にわたしも「あ!」と声を上げる。
確かに彼女はジンとのバトルでそのミサイルを何らかの方法で防いだはずなのに、あの時はそれをしなかった。
オーディーンの武器によって動けなかったとはいえ、その素振りの一つぐらいしてもいいのに…。
「俺、あいつはあえて攻撃を受けたんじゃないかと思うんだ」
「あえて…じゃあ、自分から負けたっていうの?」
「そう、だと思う。
なんでかは分からないけど…」
「あえて負けるって、何がしたかったんだよ。あいつ」
「……」
もしも、彼女があえて負けたのだとしたら、その目的は本当になんなのだろう。
思い出すのは、あの女の私だって怒りたくなるような笑い声。
「…どーにも、私には特に目的なんてないみたいに思えるわ」
行動に悪意しかないのでは、なかろうか。
私たちの話を静かに聞いていたジンは、バンの疑問が挙がった時から必死で何かを考えているようだった。
「……やはり鳥海ユイと関係があるのか…?」
ぼそりと呟かれた言葉。
聞き取りづらかったけれど、どこか不穏な雰囲気だった。
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