34.籠の中の瞳 (35/76)
「おおお…おおー…」
お父さん。
私は今、感動で打ち震えています。
「ああ! あのパーツはこの前発売された限定タイプ!
あっちのアーマーフレームは素材に軽量カーボンを使用した最新型…!
うう…値段も底値…この機会に買って改良したい」
メカニック系の人間なら垂涎もののパーツを前に、私は目を輝かせずにはいられない。
隣にいたアミちゃんがちょっと引いていたけど。
ごめんなさい。でも、底値はものすごく惹かれます。
ああ! あっちの値段も安い…。
「その前にバトルの腕を磨けよな」
思わず目移りしていると、尤もなことをカズ君に言われてしまう。
「頑張りますっ!
なので、ちょっとこことここと…あと穴場と噂のあっちのパーツ屋さんに…!」
「あ、俺も行く!」
秋葉原のパーツ屋マップを指差しながら説明すると、バン君も私の手のマップを覗き込んで同意していくれる。
これぞ。鬼に金棒なり。
「おい。油断するな」
でも郷田先輩に止められてしまった。
確かに、今日は伝説のハッカーと言われるオタクロスさんを捜しに来たわけだけれど…ついパーツを見て舞い上がってしまった。
うう…反省です。
「よしっ! パーツを探しながら、オタクロスさんも捜そう!」
おおーと私は拳を高く突き上げる。
気合を入れて、歩き出そうとすると後ろからアミちゃんが一言。
「ユイ。それ全然反省になってないわよ」
■■■
アミちゃんの見事な推理力でアキハバラタワーに辿り着いた私たち。
私は付いてきただけだけど。
オタレッドさんはバン君たちと会ってるし、中継もされてるから知ってるだろうけど、私のことは誰も知らないのでまず自己紹介から私は始めよう。
「はじめまして。バン君の友達…えーと、仲間の鳥海ユイです!」
「これは、ご丁寧にありがとうございます!」
ぺこりと家にあった礼儀作法の本を思い出しながら、礼をする。
そうすると、オタレッドさんも丁寧にお礼をしてくれる。
続いて、ブルーさん、イエローさんと順々に説明してもらう。
実に和やかなムードに、バン君はともかく他の三人は呆れているのが感じ取れた。
「お前がしゃべると話が進まねえんだよ」
私はそう言うカズ君にズルズルと後ろの方に引きずられてしまう。
大人しく引きずられる私も私で、お互い嫌な慣れ方をしてるなあ。
首根っこを掴まれたまま、その…なんとも言えない雰囲気のオタイエローさんと勝負するアミちゃんを見守る。
バトルはアミちゃんが前半にちょっと苦戦していたけど、その観察眼で見事勝利する。
端端の動作が容赦ないなあと思いつつも、ぱちぱちと拍手してしまう。
アミちゃんの機体がパンドラに変わったのは、ついこの間と聞いていたけれど、申し分のない動きだ。
確実に長い付き合いのはずの私とクイーンよりも良い。
比べて少し落ち込んだ。
「すごーい!
すごいよ! アミちゃん」
「ふふ。褒めすぎよ、ユイ。
でも、ありがとう」
アミちゃんは満更でもなさそうに可愛い笑顔を浮かべ、私の頭を撫でてくれる。
うーん、この溢れんばかりの魅力は確かに好きになるのも頷ける。
私が少しばかり幸せを噛みしめていると、バン君はオタレンジャーの皆さんから伝説のLBXを受け取っていた。
ちらりと見えたそれはこの界隈ではあまり珍しいとは言えないタイプのLBX。
あ、でもちょっと珍しい部品使ってる。今の相場だとそんなに高くないけど。
「うう…私もあっちにちょっと行きたかった…」
是非、あの独特のアーマーフレームを見せて欲しかった。
オタレンジャーの皆さんの反省会に行きたかったのです。
そう嘆くも、一度は離された首根っこを再び掴まれて乗せられたエレベーターの中なので、もう戻ることも出来ない。
私の反応に対して、溜め息を吐きかねない顔の郷田先輩となにやら不機嫌そうな仙道さん。
カズ君は相変わらず呆れていて、アミちゃんも少しだけ呆れ笑い、バン君はまた会えるさと励ましてくれる。
一部そうではない気がするけど、理想的な仲間関係だと思う。
私には勿体ない。
あ、いや…良い仲間だと思う。
私の目に映る光景をを少し切り離した思考で、私は見ていた。
脳内で別の私がギョロギョロと目を動かしているような、少し居心地の悪い感じがする。
でも、それも慣れだ。
慣れてしまえば、どうってことない。
時々頭の中で切り離して、色々と動かして、必要な部分を引っ張りだしてから、また押し込んで眠らせておけばいいんだから。
深呼吸を一つする。
いつものように。いつものように。
呪文を心の中で唱える。
よし。
上手く笑えてます。
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