26.孤独 (27/76)


『アタックファンクション パワーショット』

ジャッジの必殺ファンクション。
それはマスカレードJをブレイクオーバーにした。
そして、その瞬間灰原ユウヤが叫びだした。

「うわあああああああっ!」

鼓膜を震わせる悲痛な叫び。
幽霊のような緩慢な動作をしたかと思えば、ふらりとその体を元の位置に戻す。

そこからの攻撃は常軌を逸していた。
相手の首を取っただけでは飽き足らず、腹部を何度もその大剣で突き刺し続けた。

「やめろ!」

そう破壊されたLBXの持ち主が止めに入るが、灰原ユウヤはそれに動揺するでもなくただ…

「あはははっ! あははははっ!」

不気味に笑っただけだった。
そして、頭を抱え込み、呟く。

「…独りにしないで」

「っ!」

その言葉、その声に僕は覚えがあった。
灰原ユウヤは寂寞とした言葉とは裏腹に不気味な笑いを繰り返す。

「うわっ…! あははははっ! ううっ…あははは、はっはは!」

その声に反応するように、呼応するようにジャッジの動きが素早く、強いものになっていく。
一振りでもブレイクオーバーになりかねない凶悪な攻撃。

「独りにしないで…」

「一切の指示を受け付けません。被験体、制御不能です」

彼の仲間からの事務的な声。
彼らは手持ちのパソコンを閉じると、灰原ユウヤを置いて、その場から逃げ去った。

「あいつら…!」

「仲間を置いていくの!」

バン君の仲間から非難の声が上がるが、それを気にしているよりも先にジャッジの攻撃が迫る。
ギリギリで躱すことを繰り返すが、このままでは…!

「独りに…」

「こんなことって…」

譫言のように呟きながら、苦しみながら頭を抱えだす。
何度も悲痛な叫びを繰り返し、荒い呼吸を続けるその姿は明らかに異常だ。

「うわああああああっ!」

叫びながら、彼は左肩のスーツを自らの手で切り裂き、そこにある古傷を自ら露出させた。

「独りに、しないで…」

「あっ…!」

その傷を見て、全てを思い出す。

トキオブリッジ倒壊事故後に入院した病室。隣のベッドで包帯を巻かれていた少年。夜中で「独りにしないで」と呟いていた…灰原ユウヤの姿。

「あいつだ…」

同じ病室にいた…。
色々なことが頭の中で一つに繋がっていく。
『神谷重工』と書かれたケース…お祖父様が彼に何かしたのか?

いや、それよりも…あのスーツのコントロールシステムの暴走で灰原ユウヤに影響を与えている。
このままでは…!

「山野バン! 一緒にあいつを止めるんだ!」

「え?」

「あのスーツのコントロールシステムが暴走している。
LBXを倒さなければ、奴の精神は崩壊…いや最悪死を招くだろう」

「まさか、そんな…」

「言うことを聞け!」

「…っ。わかった! Vモード、起動!」

『アドバンスド Vモード』

CCMが輝きを放ち、アキレスが黄金に輝く。
二人でなら、あの暴走も止められるはずだ。

「いいか、奴のLBXを破壊する。付いてこい」

「それであいつを助けられるんだな?」

「ああ!」

僕は力強く頷いた。

あのスーツとジャッジは連動している。
ジャッジを止めさえすれば、暴走も収まるはずだ。

「暴走したジャッジの行動は予測不可能。至近距離からの一撃で決める」

「うん!」

2体同時にジャッジに向かって走り出すが、暴走したジャッジはこちらの行動を的確に防いで一撃を喰らわせようとして来る。

それを避け、僕はミサイルによって目隠しとして煙幕を張る。
その隙に、空中から一気に畳み掛ける!

しかし煙幕はジャッジの大剣によってすぐに払われ、空中で一撃を受けそうになるが、それをお互いの武器をぶつけることで躱す。

「今だ!」

『アタックファンクション インパクトカイザー』

『アタックファンクション ライトニングランス』

2体の必殺ファンクションを同時に叩き込む。
強力な爆風を起こしながら、二つの技によりジャッジは姿形すら残すことなく破壊される。

「やった!」

これで、暴走は止まる。
そう思ったいたが…

「うわあああっ! ああああ…うわああああ!」

スーツから細かい電流が走り、灰原ユウヤが倒れこみながら、叫びだす。
のた打ち回り、画面には『ERROR』の文字が次々に浮かび上がる。

「暴走が止まらない!?」

ジャッジは完全に破壊したはずだ!
どういうことだっ。スーツとジャッジは連動しているんじゃないのか!

「どういうことだよ! ジャッジを倒せば、暴走は止まるんじゃないのか!?」

「あああああ、あああああああ!」

より苦しげな灰原ユウヤの叫び声が上がる中、突然…会場の照明が落ちた。
急に目の前に闇が訪れ、目が慣れず一瞬の眩暈が僕を襲う。

「な、何っ!?」

「照明が…」

「独りに…独りに…しないで!」

観客のざわめきと灰原ユウヤの苦悶の声だけが、耳に入る。
状況がわからない。
一体どうなってるんだ…。

『会場の照明システム、開閉システムに異常が発生しました。
対処の為、大会を一時中止させていただきます』

会場アナウンスが流れると、一気にざわめきが増す。
周囲を確認しようとすると、ガンっと不意に大きな何かが飛び降りてきたような音が響いた。
僕が急いで視線を音のした方向に向ける。
バン君たちもそちらを向いたのが、若干慣れてきた目で確認できた。
そこにいたのは、思いもよらない人物だった。

「……イオ」

青い瞳をした少女。灰原ユウヤを心配していたと言えなくもない彼女。

彼女は僕のすぐそばにいて、不敵な笑みを浮かべている。
その笑みはとても力強いものだった。

「ジン」

強い響きを持って、彼女は僕の名前を呼んだ。

その瞳には迷いも戸惑いも彼女の行動を邪魔するものはすべて存在せず、強い決意だけが青い光となって灯っている。
再び微笑み、彼女はその決意を言葉にする。

「大丈夫。私が彼を助けるから」


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