24.ねじまがった絆 (25/76)


「すごいな、あいつ」

カズが素直な感想を口にする。

「ええ。あの海道ジンをギリギリまで追いつめるなんて」

アミもため息を吐くように、素直に称賛した。
俺もそうだけど、ジンと戦ったからこそその実力はよく知っている。

あの海道ジンをあそこまで追いつめるなんて、相当な実力者だ。

一瞬、彼女が仲間になってくれればいいのにな…と思う。
思うけど、彼女は仲間にはなってくれない気もした。

「それにしても、本当にプロフィールが一切不明なのね。
あの実力なら一回ぐらいLマガに載っても不思議じゃないのに…」

アミのCCMを覗き込むと、確かにプロフィールは名前以外は『不明』の文字で埋め尽くされている。

「イオっていったか。あいつ、なんかどことなくユイに似てるな」

「えー。全然似てないわよ。
ユイがこんな笑顔するとか、想像できないわ。
もしもこんなふうに笑ったら、それこそ人類滅亡よ」

「まあ、確かになあ」

「ユイがこんな顔したら、俺、本物か疑うかも…」

カズと二人、アミの意見に納得する。

俺の記憶にあるユイはニコニコとよく笑う女の子で、なんというかぼーとしていて、ふんわりした雰囲気のある女の子だ。
これは多分、アミやカズも同じ意見だと思う。
カズの場合はそれに加えて、鈍臭いぐらいは思っているかもしれない。

「あら? そういえば、ユイがいないわね」

観客席を見ていたアミの視線を追うと、確かに観客席にユイの姿がない。

「どうせトイレにでも行ったんだろ。あいつ、間が悪いし」

カズ、間が悪いとは意味が違うんじゃ…。


■■■


海道ジン君とイオのバトルは終わった。

私はバトルが終わると同時に席を立つ。
そして、本来進入禁止である関係者通路…バトルを終えた選手が戻ってくる通路でもあるそこで、私は待ち続けていた。

こつこつとブーツの音が聞こえてくる。
左側で一本にまとめた髪が綺麗に揺れている。
伏せていた顔が私に気づいて上げられ、青い瞳がこちらを見据えた。

「イオ…」

「…何か用? ユイ」

一瞬鋭く細められた目はすぐに柔和になり、彼女は…イオは私に微笑んだ。

その笑みに罪悪感を抱いてしまう。
思わず私が顔を伏せるとしばらく考えてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「え、と…ジン君とのバトル、残念だったね」

「そうね」

「でも! 来年は大丈夫だよ」

「ユイは…私に来年があるって言うの?」

「…来年もあるよ。大丈夫。
イオはもっと強くなって、『アルテミス』に戻ってこれるから」

「………そう」

長い沈黙の後に短く答えるイオ。
その表情は儚げで綺麗で、でも諦めが混じっていて…とても複雑な表情をしている。

かける言葉が見つからなくて…そうしている間に、「はあ」というため息と共に彼女が私の隣を通り過ぎる。
私とは似ても似つかない海のような瞳が、底知れない光を帯びてこちらを見据える。

「用がないなら、もう行くわ。
そっちはそっちで早く観客席に戻らないと、色々勘繰られるよ」

「うん…。
ねえ、あのさ、イオ…」

「…まだ何かあるの」

冷たい声。昔はこんな声、出すような子じゃなかったんだけどな…。

「こんなこと、いつまで続けるの?」

「私が『約束』を果たすまでよ」

当然とばかりに彼女は言うと、今度こそ彼女は私の前から去っていった。
ブーツの音が遠くなり、段々と聞こえなくなって、私は漸くまともに息を吸うことが出来るようになる。

「…どうにもなんないなあ、私じゃあ」

そもそも…イオをあんなふうにしたのは、きっと私だから。
私がどうこう出来るわけないんだ。



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