22.めぐりあい (23/76)
イオ…と名乗った少女のバトルを見ることは出来なかった。
同じブロックだから、当たり前ではあるが少し気になった。
あの不敵な笑みと底の見えない青い瞳が思い出される。
そして、そういえば…と思い当たる。
彼女の顔は…鳥海ユイに似ているのだ。
ただ鳥海ユイが不敵な笑みを浮かべているのを想像できず、また彼女の瞳はごくごく普通の茶色をしているので、あの時は思い至らなかった。
髪も鳥海ユイはショートだが、イオは結べるほどに長い。
僕は彼女とイオの顔を照らし合わせようとしたが、イメージが違い過ぎてやはり重なり合わない。
だから、他人の空似だろうと僕は決めつけた。
■■■
『さあ、Aブロック決勝!
勝ち上がったのはこの二人だーっ!』
大きな歓声が上がる。
下から見る観客席の光景は相変わらず圧巻であり、思わず数秒だけ目を奪われたが…すぐに視線を元に戻した。
『なんと両者ともに大会初出場!
しかもサポートメンバーなしの実力者っ!
まず一人目は海道ジン! あの伝説のLBXプレイヤー・レックスに勝利した期待のルーキーだ!
そして…』
目線の先の彼女…イオは僕に笑いかける。
そして観客席を自信ありげに見上げた。
『プロフィールは一切不明ながら、確かな実力でAブロック決勝に辿り着いたイオ選手!
今回は今大会でも珍しい1対1のバトル! どんな熱戦が繰り広げられるのか!?』
「運良く、決勝で会えたわね」
彼女が僕に話し掛けた。
歓声の中、おそらく僕にしか聞こえていない。
「それは運が良いというのか?」
「私としては。
強い人と当たるっていうのは、それだけプラスになるもの。
成長できる可能性があるなら、それは運が良いってことだと私は思うわ」
「……その考えは理解できなくはないが、僕は負けるわけにはいかない」
僕がそう宣言すると、彼女は青い瞳を少しだけ揺らす。
いや、揺らしたというよりはその青をより深くした。
本当に底の色が見えない。
「うん。まあ、何はともあれ、負けられない理由があるのはいいことね」
彼女はそう話を締めくくり、肩に乗せていたLBXに視線を移した。
エメラルドグリーンの塗装。
ストライダーフレームのようだが、見たことのない機体だ。オリジナルか。
そして、その武器も見たことのない武器だった。
あれは…アーミーナイフ? 形が良く似ているが…。
「珍しい武器を使うんだな」
「ああ。これ?
珍しいでしょ」
彼女の言った通り、その武器は珍しい。
どの武器に分類されるのかと聞かれれば、正直困る。
それはつまり、どんな攻撃が来るのか予想が出来ないということだ。
《次の対戦相手…手強いと思うから気を付けてね》
不意に鳥海ユイの言葉が蘇る。
きっと杞憂だ。
『今回は草原のフィールドを使用します!
遮蔽物のないこの空間! どう利用するのか!』
「それじゃあ、行こうか。
ティンカー・ベル」
イオの肩にいたLBXがフワリと軽やかな動作でフィールドに降り立つ。
その様子はその名の通り、妖精のようだ。
「行け! エンペラーM2!」
僕もエンペラーM2をフィールドに放った。
彼女と目が合う。
その瞳がすっと細められ、鋭い敵意が滲み出る。
ぞくりと背筋に悪寒が走った。
『それでは、バトルスタート!』
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