17.一方はある程度の好意 (18/76)
隠し扉の先は長かった。
這いつくばっても這いつくばっても、とぐろを巻くコードぐらいしか見えない。
「……時間は結構経ってるんだけど…」
CCMの画面から時間を確認して、もう10分はこうしていることがわかる。
さすがにバッテリーが心配なのでクイーンは回収して、今はまた鞄に収まっている。
「う〜…」
なんというか、自分が今どこにいるのかわからないのは不安。
地図が通用しないから仕方ないけど、私は本当に今どこを進んでいるのだろうか。
「せめて私にもうちょっとコンピュータ系統の知識があればいいんだけど…」
そうすれば、この細い通路にところどころあるアクセスポイントから海道邸の内部ネットワークに接続出来るかもしれない…のに。
まあ、そんなに都合よくいくとは思わないけど。
「もう少し明かりが見えると良いんだけど…」
それならやる気が湧くのに…!
ブツブツと怪しげに文句を呟きながら、先へと急ぐ。
もしかしたら、バン君たちはもう目的地に着いているかもしれない。
そしてもしかしたら山野博士を救い出しているかもしれないし、敵に捕まってしまったかもしれない。
私が何の助けになるかはわからないけど、急がなくちゃ!
「ん?」
しばらく進んだら、行き止まりになった。
でもコードは色々と隠れるようにして外に向かうようになっているし、完全な行き止まりではないということはわかる。
なんとなく私が右手を一応の壁に添えると、僅かに右にずれた。
「開く…」
自分でやってびっくりした。
これで外に出れるという気持ちとさっきみたいに警備の人がいるかもしれないという気持ちがある。
でも、もう後ろには引けない。
そもそもまた這いつくばって戻ったところで、捕まらないという保証はない。
ならば…!
「ええい!」
勢いをつけて、扉を右にスライドさせる。
途端に光が溢れてきて、思わず目をつむった。
ずっと暗い所にいたから、普段当たり前に見ている光でも眩しいと感じた。
しばらくすると段々と目が慣れてきて、部屋全体を見渡せるようになる。
え…と道場?
「…ひろーい…」
間抜けに呟いてしまう。
日本式というか、私がさっき思ったように道場みたいな雰囲気の部屋でバスケとか柔道とか…何かスポーツが出来そうな部屋だった。
「何の部屋なんだろう…」
「僕の部屋だが?」
「へえ。ジン君の部屋かあ…ってジン君!?」
我ながら惚れ惚れする綺麗な動きで振り向くと、仏頂面のジン君が立っていた。
その後ろには執事さんらしき人もいて、とても困った顔をしている。
当然だよ…ね。
「え、えーと…その…」
「……」
む、無言はツライ…!
私も立ち尽くすし、相手も相手で気まずそうだし、よくよく考えるとジン君がここにいる以上私と彼は敵同士。
その反応は尤もである。
「…君もバン君たちの仲間なのか?」
「え、あ、うん」
もう仕方がないと思いつつ、腹を括る一歩手前、なんだか中途半端な心のままで彼の質問に答えてしまった。
ジン君もなんだか、きょとんとしている。
その表情はすぐに元の、無表情のような不機嫌なような判別の付かない顔に戻った。
一方、隣の執事さんは無表情。さすが執事さんって感じがする。
「はあ…」
何故ため息を吐くのか。
「今すぐ僕が警備に通報するかもしれないのに、何故君はそんなに落ち着いているんだ。
それとも…君は僕に勝てる程強いのか?」
「私は強くないよ」
彼の質問に私はきっぱりと答えた。
そうは言っても、私が答えたのは2つ目の質問だけだけれど。
私は深呼吸を一つしてから、今度は言いたいことをちゃんと整理してから話し出す。
「落ち着いているっていうのは、始めから…ここに来た時点で捕まるっていうことは覚悟してたもの。
それに抵抗するよりも良い時が場合によってはあるから、この場合は抵抗しないよ。
…あとは…私は弱いし、役に立たないことは自分で分かってる。…迷子になってる時点で分かりきったの。
だから、捕まえるなら捕まえていいよ」
両手を上げて降参のポーズ。
ジン君はその様子をあれは心底嫌そうな顔ともいうのかな、いやいや…苦手意識を持っているような顔で見てくる。
う、うーん。『アングラビシダス』から若干感じてたけど、どうにも私と彼は反りが合わないといいますか、なんといいますか。
こっちは何にもないのになあ。
「はあ…」
だから何故ため息を吐く。
「付いてくるといい。
バン君たちのところまで案内しよう。僕も用がある」
「いいの?」
「長居される方が迷惑だ」
そう素っ気ない返事をしてから、ジン君は歩き出す。
LBXを出す気配もない。本当に私をバン君たちの元へ案内してくれるらしい。
私はジン君の態度に不安を抱きつつ、彼の背中を追いかけた。
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