16.迷走宮 (17/76)
口にペンライトを咥えた。
CCMのライトでは心許なく、また精密な作業を必要とするからだ。
「まったく…人遣いが荒いんだから…」
ブツブツと器用に少女は呟きつつ、床にセットしたそれの配線を整えていく。
狭い通路、具体的には人一人が通るギリギリの通気口ではあまり身動きが取れず、作業しづらい。
「ここを…こうで…。この下がこうなってるから、量はこのぐらい…。
あー、指示通りって難しい」
そうは言いつつ、順序良く配線や信号が無事受信出来ることを確認すると、少女は這いつくばって先へ進む。
「よし。終わり」
最後の一つを設置し終えると、彼女はCCMの地図を確認する。
一つ一つの音に注意して進み、人がいないことを確認してから、少女は慎重に通気口から這い出た。
「警備システムを一部ダウンさせて、ジャミングも加えて万全を期しているとはいえ、やっぱり辛いわ…。
単独行動と隠密行動はこれだからなあ」
凝り固まった肩をほぐしつつ、彼女は堂々と正面から『シーカー』面々が明日…いや時刻は当に深夜を回っているので、正確には今日突入予定の海道邸を後にする。
背後を見上げると、層状になった海道邸から漏れる光が目に入る。
「さてさてどう転ぶか…。まあ、上手くやってください」
彼女はそう言って、欠伸を一つ。
「…また寝不足かなあ」
敵地とも呼べる場所で、堂々と呑気にそんなことを言った。
■■■
海道邸への侵入は大変だったけど、順調は順調。
私たちはセキュリティが解除されるとそれぞれ目的地を目指す…はずなんだけど…。
「迷った…」
バン君たちの背中を必死で追いかけて来たはずなのに、何故迷うのか…。
自分でも理解に苦しむ。
周囲に人がいないことを確認し、私はCCMを開く。
それから予定外ではあるけど、鞄からクイーンを取り出す。
クイーンを先行させ、そのカメラで警備の人がいないことを確認しながら進む。
本当はいけないけど、これなら誰が来ても威嚇するぐらいは出来る。
「えーと…」
地図を確認する。
バン君たちのCCMの位置が赤い光で点滅しているのを確認すると、私との位置がだいぶ離れていた。ついでに言うと、目的地からも結構離れてしまっている。
「うーん。ここから合流できなくはないけど…危ないけど単独で向かった方が良いよね。
うあ…、初めからこれ見ておけば迷わなかった…」
そもそも何に気を取られたのか…。
きっと下らないことなんだろうけど、ああ、自分に腹が立つ。
セキュリティを解除しているのが効いているのか、誰もいない広い廊下を進む。
赤絨毯調の廊下はどこまでも続いて行きそうであり、また迷いそうで怖くなる。
傍から見たら緊張しているのかどうかわからない顔をしていると思うけど、私は慎重に慎重に進む。
「見つけたぞ! 侵入者だ!」
「うえっ!?」
後ろから突然声がして、思わず素っ頓狂な声を上げてしまうけど、そんなことをしている場合じゃない!
床を蹴るようにして走り出す。
CCMで確認した地図をすぐさま頭に思い浮かべる。
しばらく進まないと階段はない。
「…どうする!?」
大人、しかも複数人数を相手にするのは明らかに私の方が分が悪い。
加えて私には地の利もない。
どんなに海道邸の地図が頭に入っていても効率やルートを考えて移動できるわけじゃない。
今はある程度距離が開いているからいいけど…!
ああ! もう手詰まりもいいところだよ! 嬉しくない!
あまり良くない運動神経を総動員して走る走る。
目の前の廊下が少しだけカーブしている。足がもつれてこけないように!
「うにゃっ!?」
したはずなのにこけるとはどういうことか…。
ガコン。
こけた拍子に寄りかかった壁が突然回転する。
隠し扉みたい…というか隠し扉に巻き込まれるようにして、急激に目に刺激的な赤い廊下が遠ざかる。
「やばっ!」
咄嗟にCCMを操作してクイーンを扉の間からこっちに滑り込ませる。
次にバタバタと慌ただしい音がした。
多分、私を追いかけてきた人たちだ。
運よく私が隠し扉の中に入ったのは見えなかったらしい。
「……どうにかなったのはいいけど、ここどこなんだろう?」
今度こそ本当に迷子だ…。
そして…話は冒頭に戻るのである。
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