15.潜入前夜 (16/76)


「うわあ…。これが『シーカー』本部…!
なんかとっても心躍る空間…!」

デパートの地下というだけで心躍るのに、そこに至るいくつものセキュリティ。
加えて高性能コンピューターを使った『シーカー』本部の室内は更にドキドキワクワクの空間だった。

途中でアミちゃんが「わくわくしてきた」と言っていたけど、全力で頷いた。

私の後ろにいた郷田先輩がちょっと怖かったけど、そんなのすぐに忘れてしまうぐらいに私は喜んでいた。

「ユイって意外とオタク気質だったのね…」

「はしゃぎ過ぎ」

アミちゃんからは苦笑を、ミカちゃんからはグサリと胸に突き刺さる言葉を貰って…機械に触りたいと言う衝動をなんとか抑えた。

そうそう驚いたことが一つ。

私たち以外にも『シーカー』のメンバーがいたということ。

アミちゃんとバン君と同じクラスのミカちゃん、リュウ君の二人と…

「アンタ、あたいと同じクイーンを使うんだってね。
ま、よろしく」

ものすごくちっちゃいリコ…さんを含む、四天王という人たち。

リコさんから握手を求められて、戸惑いがちに握手した。
彼女もLBXはクイーンを使うらしい。
彼女の方が実力は上だろうし、きっと参考になるからカスタマイズを見せてもらおう。

私は里奈さんが持ってきたデータが解析している間、『シーカー』内部を見て回る。
さすがに触らせてはもらえないけど、見ているだけでもけっこう楽しい。

「それにしても、里奈さんってやっぱりかっこいいわね。
出来る大人って感じ」

アミちゃんも私に付き合って見て回る中、里奈さんについての話題が上がった。
確かにかっこいいし、頼りになりそうだけど…なんか、こう…

「うーん…私はちょっと、苦手…かな?」

「え? どうして?」

「なんだろう。こう…自分で自分を見ているような、痒いところに手が届かないような…複雑な、感情が渦巻いています」

「意味が解らん」

手をわきわきと動かし自分でも訳が分からないことを口走っていると、カズ君がツッコんでくれた。
彼もなんだかんだで私の話を聞いてくれていたらしい。
いまいち自分の感情が説明できないでいると、宇崎さんに呼ばれた。
どうやら解析が終わったらしい。

海道邸への侵入は地下にある隠し通路を使うらしい。
有事の際の逃げ道らしいが、地下だからといってセキュリティが甘いわけじゃない。
私も通路とか見えない場所のセキュリティは気を配ったなあと思い出しながら、あれよりもすごいんだろうなあと呑気に考える。

「でも、これだけ情報があるならグレースヒルズに行ってみましょう!」

バン君がそう言うが、檜山さんに止められ、里奈さんに説得される。

「突入するなら明日の夜を狙うべきよ」

「明日の夜?」

「明日の夜なら海道は政府の会合で留守にするわ。
その分、警備はいつもよりも手薄になるはずよ」

彼の表情は苦しげであるけど、私も里奈さんの意見に賛成だった。
それにみんなもそうだと思うけど、準備だって万端じゃない。

今ではない。それが一番良い判断。


■■■


お父さんは研究に夢中だったので、そおっと抜け出して来れば後は簡単だった。
途中でバン君たちと合流して、『シーカー』本部に向かう。

檜山さん (未だにレックスという呼び名が慣れない) が作戦を説明し、3グループに分けることを指示する。
きっと『シーカー』本部の護衛のためにも何人か残しておくんだろうなと考えて、私はきっと居残り組だななんてのんびり構えていた。

「第2グループはバン・アミ・カズ、そしてユイの4人」

構えていたら、とんでもない発言が聴こえてきた。
思わず二度見してしまう。

「それじゃあ、作戦開始までそれぞれの動きを細かく詰めていこう」

そんなことを言い出すから、私は思わず檜山さんに詰め寄ってしまう。
出来る限り切羽詰った表情も忘れない。
いや、素なのですが。正直かなり動揺してます!

「檜山さん! 私が海道邸に乗り込むってどういうことですか!?
正直役立たず極まりないです!」

「自分をあまり卑下するな。それに俺の推薦だ。責任は俺が取るさ」

「そういうことじゃないです!」

「お前はいざって時のメンテナンス要員だ。
チームにメカニックを入れるのは当然だろう」

「いや、だから…!」

「なあに、ごちゃごちゃ言ってんだ!」

「うわっ!?」

檜山さんに必死で抗議していると、後ろから思いっきり叩かれる。
これは平手を打ちこまれたな…。
視線を背後に移すと、郷田先輩がいた。やっぱり少し怖い。

「あのレックスに推薦されたんだ! 自信を持てって!」

そう励まされ、背中をバンバン叩かれる。
い、痛い…。

「いや…その、あー…。檜山さん、逃げた」

私が良い感じの平手打ちをかまされている間に、檜山さんは宇崎さんたちの場所に行ってしまう。
背中も痛いけど、えーと…これは…。

「…ユイ。許さない」

ミカちゃん視線が痛いです。不可抗力なんです。許してください。
そもそも郷田さん、タイプじゃないです!




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