13.流されるままに (14/76)


ジン君と別れて私が来たのは関係者通路。
時間的にはアミちゃんのバトルが始まっている頃かもしれない。

ここで檜山さんと待ち合わせをしている。

「あ、檜山さん! 何なんですか?
私、アミちゃんの応援があるんですけど」

「アミなら海道ジンに負けたぞ」

「いや。情報を聞くんじゃなくて…って、アミちゃん負けたんですか!?」

「大きな声を出すな。海道ジンが相手なら仕方あるまい。予定調和だ。
それよりも…」

「それよりも?」

「お前、このメールに書かれていることはお前ひとりで考えたのか?
海道義満のことは? 山野博士のことは?」

檜山さんが私に見せたのは、さっき私が送ったメールのことだった。
内容としては海道大臣さんとバン君のお父さんの死亡が関係あるんじゃないかと言うこと。
まあ、かなり当てずっぽうだけれど…というかコウトウムケイ。
自分で考えて、「ファンタジー?」とツッコミを入れたくなった。

「全部自分で考えましたよ?」

「本当にか?」

「本当ですよ。
海道大臣さんは先進開発省の大臣さんじゃないですか。バン君のお父さんは有名な工学博士だっていうし、もしかしたら関係あるんじゃないかなーって。
可能性の範囲を出ませんけど…。
あ、もしかして自分が重要なことを言ったんじゃないかとか考えてますか?
檜山さんは別に私にそんなこと一言も言ってませんよ」

「………」

私が捲し立てるようにそう言うと、檜山さんは黙り込む。

これは…もしかしたら当たりかもしれない。
檜山さんは表情に出にくいけど、これほどわかりやすい時もない。なんというか不気味だ。

「ユイ。お前に頼みたいことがある」

「…また雑用ですか?」

正直最近の雑用はもうお金取っていいレベルだと思うんですけど…。
檜山さんは私の首根っこを掴むと、ズルズルと私を引きずっていく。
いや、私自分で歩けますよ。そこまで抵抗しませんって。

「何なんですか? 檜山さん!」

「…シーカー…」

「え?」

「お前にはシーカーに入ってもらう。
その観察能力…役に立つときが来たぞ。
いや、正直お前が役に立つ日はないと思っていた」

「…檜山さん。私のこと、実は全然信用してなかったんですか?」

「そんなことはない。信用しているさ。
これからはバンたちの役にも立てるぞ。お前もそれを望んでいるんじゃないか?」

「と、いうことは…当たりなんですね。
でも…はっきり言って、私メンテナンスとカスタマイズと雑用以外は役に立ちませんよ。
それにシーカーの説明を聞いていません!」

私の意見は正当だと思う。
檜山さんは依然として私の首根っこを掴みつつ、概要を説明してくれる。

これまでの経緯とシーカーの存在、バン君のお父さんのことを教えてくれる。
檜山さんは今に限っては饒舌であり、余計に不気味だ。
なんだろう…ものすごく悪い予感がする。

でも逃げたくても猫の如く首根っこを掴まれているから逃げられない。
ピンチ!

「拓也に直接聞いてくれ。
ともかくお前にはお前にしか出来ないことをやれ。
お前の大好きな『人助け』だぞ。良かったな」

「別に『人助け』が好きって訳じゃあ…。
はあ…もういいです」

溜め息を吐いて、私は抵抗することを諦めた。

こういうときに言うことを聞かないのを私はよく知っている。
こういうときは何も考えずに流されるに限るということもよく知っている。




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