10.闇の開幕 (11/76)


一週間なんてあっと言う間だなーとか考えていた。

勿論、『アングラビシダス』のことである。

『Blue Cats』にバン君たちが来てからもう5日。
私は『Blue Cats』で『アングラビシダス』の準備、バン君たちは『アングラビシダス』に向けての特訓。
私も時折クイーンでバトルしたけど、彼らは着実に強くなっている。

…はっきり言おう。私では相手にならない。

「もっと努力、しないとなあ」

鞄の中のクイーンをポンポンと軽く撫でながら、私はそう溜め息を吐いた。

私は遠方からの攻撃を防いだり、近距離の攻撃をギリギリで躱すことは出来るのにいざ戦闘となると劇的なまでに弱い。
いくらアミちゃんに観察力や予測能力を褒められても、操っているプレイヤーがこれじゃあなあ。

私は『アングラビシダス』の準備と言うことで、一時的に閉鎖している会場にこっそりと忍び込む。

私が日々修理に躍起になっている強化ダンボールの中に、私のLBX・クイーンを入れた。

「…よし!」

特訓開始なのです!

クイーンはホバーを装備していて、市販品の中では高い地形対応力と高機動を有している。
本来遠距離からの攻撃に優れていて、搭載しているミサイルやクイーンズハートをうまく使いこなせれば、接近戦を主体とする相手にも十分対応は可能。
……のはずなんだけど。

私の能力的に地形対応力は平均より上ぐらいをキープできても、高機動を活かしきれていない。そのせいで接近戦に持ち込まれるか、遠距離の戦いだといい標的にされてしまう傾向がある。

うーん…我ながら欠点が多すぎる…。

「…そもそもサポートの方が性に合ってるんだよね」

結果としてそこに行きついてしまう。

誰かをサポートするという戦い方の方が私には向いていることを私はよく知っている。

でもそれで片付けてはいけない問題が起こりそうな気もして、今は練習あるのみである。

「せめてもう少し長期戦に持ち込めるようにしないと…」

ブツブツと怪しげに色々呟きながら特訓を続ける。

私の『アングラビシダス』への日数はそうして過ぎて行った。


■■■


一週間ってあっと言う間どころじゃないです…と愚痴ってみる。
もちろん相手はいない。
独り言である。なんとも空しい。

一段下がった場所では檜山さん…この場合は伝説のLBXプレイヤー・レックスが、私が事前に微調整したスポットライトを浴びつつ高々と大会開始を宣言をし終わったところ。

私としてはレックスが伝説のプレイヤー云々よりも強化ダンボールが壊れる方が問題なのだけど、今回は壊れたら素直に廃棄するという約束を彼がしてくれたのでもうどんどん壊して! という気持ちである。
そこだけは恐ろしく晴れやかな心でいる。

「応援は任せなさい!」

ない胸を張りながら、私は3人にそう宣言した。

「ああ! 応援よろしくな、ユイ」

「なんで応援にそんなに意気込む必要があるんだよ…」

「何事も気合を込めればどうにかなるかな、と」

「さすがね、ユイ。見事な体育会系だわ」

「実際運動は出来ないんだけどね!」

「自信満々に言うな」

三者三様の反応を有り難く頂戴する。
彼らはとりあえず人のあまりいないところでカスタマイズの相談をするらしい。
私も同行させてもらい、カスタマイズの相談に乗る。

基本的にはバン君の好きなように選んでもらって、彼らの持っていたデータと照らし合わせて、私の意見を適当に混ぜていく。

カスタマイズは考えるのは良いけど、考えすぎるのは良くない。
自分に見合った武器を、それでいて相手との相性を考慮して選ぶ。
慣れない武器は命取り。それに例え相性の悪い武器でも、実力次第では優勢に持っていける。

「自分を信じれば大丈夫」

そんな当てにならないアドバイスをした私は本当に情けないと思う。

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