09.私は考える (10/76)



結局海道ジン君のバトルを見終わると、私たちは別れた。

『Blue Cats』の前まで見送って、それから私は個人修復が可能な、それもギリギリの強化ダンボールを修復しにかかる。

パソコンで元のフィールドを確認してから、それを専用のソフトで立体的に再現。
後は市販の工具と檜山さんがどこからか集めた特殊素材で修繕していく。

これは本来なら強化ダンボールの権利を有するタイニーオービット社に持ち込むべきなんだろうけど、檜山さん曰く「あまり迷惑はかけられない」らしい。
宇崎さんの権限があれば、何個かはタダで修繕してくれるのではないかというセコイ手も思いついたけど、そうはいかない込み入った事情があるんだとろうなあと考え直した。

宇崎さん。宇崎拓也さん。

私は初めて彼に会った時、私が瞬時に結びつけたのはタイニーオービット社の社長だった。

名前とそれからどこかで見た社長の顔がどことなく彼に似ていたから、私がそう言って失礼にも「親戚とかですか?」と聞くと驚いた顔をして、彼の身分を明かしてくれた。

檜山さんとはどういう関係で、何故『Blue Cats』に来るのか、どういう経緯があるのかは知らない。
まあ、知らなくても問題ないわけで、私がすべきことは相も変わらずここの雑用。
アミちゃんやバン君、カズ君も何か関係があるようだけど、少なくとも私が何かして悪化しないという保証はない。

「うーん…」

工具でバンバンと叩くだけでどうにか直らないかと考えつつ、近いうちに話してくれるのかなとも考える。

話してくれたら、協力は惜しまないと思う。

でも、冷静に自己分析すると、私が役に立つのってメンテナンスぐらいだと思う。
カスタマイズははっきり言って、個人で考えて最善を見つけないと身にならないというのを私が一番良く知っている。

「むう…」

パソコンを操作して、『アングラビシダス』の出場者リストを開く。
その中から更に海道ジン君のデータを開いた。

「ジ・エンペラー…」

彼の操作していたLBX。
その性能はおそらく出場者の中でもトップクラス。
そしてそれを操る彼の実力も同じ。

バン君たちの様子から、多分最大の敵になるんだろう。
どうして敵なのか、これも私の知らないこと。
いや、彼らの反応からして、どういう意味での敵かは本当はわかっていないのかもしれない。

「何か助言が出来ればいいんだけど…無理だなあ」

それに何もわからないのに助言するのもなあ。

結局堂々巡りになってきて、私は大人しく修理に精を出す。
根気のいる作業を前に、持ってきたタンブラーに入れてもらった紅茶を一口飲む。

「あ、応援は出来るかも?」

自分で言うのはなんだけれど、これは妙案だと思った。
明日学校でバン君たちに言ってみよう。

そう思って、明日誰かに壊されるかもしれない強化ダンボールの修理を続けた。



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