91.明日の世界を見たいから

ミゼルトラウザーの動きは封じることは出来た。
でもダックシャトルの外部からベクターによってコントロールポッドの制御系を攻撃されてしまい、コントロールポッドは動かなくなってしまった。

真っ暗なコントロールポッドの中でも皆さんは冷静だった。
オタクロスさんが処理に向かってくれたけれども、復旧の目途が立つかどうか……。

「ミゼルを倒すチャンスは今だけです!
コントロールポッドが使えないなら、直接乗り込むしかない!」

バンさんが両腕と両足から煙を出しているミゼルトラウザーを睨みつけながら言う。

「…そうだね!」

「行きましょう!」

そうだ。ミゼルを倒せるのは今しかない。
それを出来るのは僕たちしかいない。
ミゼルオーレギオンに対抗出来る手段を、みんなが必死の思いで繋いでくれた希望をこの先へと繋ぐことが出来るのは僕たちしかいないんだ。

「ダメよ! 危険すぎるわ!」

そう叫んだのはお母さんだった。
お母さんは扉を背にして、まるで僕たちを行かせまいとするように叫んだ。

「お母さん……」

お母さんの気持ちは痛いほど分かる。
僕だってお母さんが危険を冒して戦うと言ったら、きっと止める。一緒に別の手段を考えようって言う。
お母さんもみんなも傷つかない方法を探そうって手を伸ばす。
でも……今はこれしかない。

そして今この時も戦ってくれている人たちがいるのに、ヒーローがここで黙って見ている訳にはいかないんだ。

「僕たちにはみんなが……世界中の仲間がついている。
ヒーローは応援してくれる人がいる限り、負けないよ!」

「今戦えるのがあたしたちだけなら…やるっきゃないでしょ!」

「ああ! 行くぞ、ミゼルトラウザーへ!」

心配してくれてありがとう、お母さん。行ってきます。

僕たちはグランドスフィアの中へと入り、僅かに開いた装甲の隙間から中に入る。
機体が傾いていると同時に中の通路や扉も傾いていて、進みにくいけど、そんなことを気にしている場合じゃない。
バンさんとランさんと一緒にミゼルトラウザーの中を進む。

ミゼルトラウザーの中枢部分に辿り着くと、その床にはホログラムで見た姿のミゼルが横たわっていた。

「あっ…!」

あれは「オメガダイン」で見つけたアンドロイドの方だと分かっていても、心臓が嫌な音を立てる。
血液が噴き出てくるような感覚に襲われていると宙から声が降ってきた。

《ようこそ、ミゼルトラウザーへ》

「ミゼル!」

そこにいたのはミゼルオーレギオンだ。あいつからミゼルの声がする。

《この世界がパーフェクトワールドになれば、君たちも幸せになれるのに、何故邪魔をするんだい?》

「押し付けられた幸せは俺たちは望んでない!」

《君たちの望み? そんなもの必要ないよ。
この世界…つまり回路の中のチップに過ぎないんだから、人間は》

半透明な…ホログラムで出来たミゼルが姿を現して、僕たちに向かってそう言った。
感情のない、それが当然というような言い方。
それは人間をこの世界に生きる全ての存在をシステムを動かすための道具としか見ていなかった。

もしかしたら、僕たちはそれで幸せになれるのかもしれない。
押し付けられた幸せの中には僕たちの望むものが一つでもあるのかもしれない。

でもそこに自由はない。LBXで遊ぶこともセンシマンについて語ることも出来ないだろう。
笑うことも泣くことも怒ることも、何もかも出来ないはずだ。
友達も家族も必要ない世界。

そんな世界を作ることが……ミゼルに管理されることはきっと幸福なことじゃない。

「人間はチップじゃない! お前に管理なんかされない!」

「ヒロの言う通り!」

「ああ! 俺たちはここでお前を倒す!」

バンさんがDエッグを投げた。
僕たちは展開されたDエッグのエネルギーフィールドの中に取り込まれる。
目の前にはホログラムのミゼルがいる。彼は冷たい目で僕たちを睨みつけていた。

「ミネルバ改!」

「アキレスD9!」

「オーディーンMk-2!」

ミゼルオーレギオンは強い。
山野博士が世界最強のLBXと認めた程の機体だ。

苦戦するのは分かってる。でも僕たちは負けるわけにはいかないんだ。

《不完全な人間が完全な僕に勝てると思うのかい?》

「完全なものなんて……あるはずがない!」

そうだ。この世界に完全なものなんて存在しない。
どんなに完成されているように見えても、そこに完全なんてない。
不完全だから前に進めるんだ。

僕たちは別々の方向から同時にミゼルオーレギオンを攻撃する。
でも僕たちのLBXの攻撃はミゼルオーレギオンに受け止められると、いとも簡単に弾き返された。

《やっぱり不完全だ、君たちは》

呆れたようなミゼルの声がジオラマに響いた。

「何、このスピードとパワー…!」

「ミゼルそのものがオーレギオンになっている。
だからダイレクトに正確な操作が出来るんだ」

バンさんの言葉通り、ミゼルオーレギオンの動きは指で入力しているアキレスD9たちと違って、素早く正確で、反応がとにかく早い。
反射神経で動いているような感じだった。脳とそのまま繋がっているような感じだ。

ミネルバ改とオーディーンMk-2の攻撃を受け止めたミゼルオーレギオンの脇に飛び込んで、アキレスD9で攻撃するけれども、二体を弾き飛ばすと同時に攻撃を防がれた。
ミゼルオーレギオンの振り上げられた剣をアキレスD9の剣で受け止める。
剣が重い。アキレスD9が踏ん張っても押されてしまう。

《勝てる要素は一つもない。君たちが負けることは確定している》

力を受け流すような一撃にアキレスD9が弾き飛ばされた。
僕たちはミゼルオーレギオンから距離を取った…つもりでいた。
でもそれはミゼルにとっては好都合だったようで、ミゼルオーレギオンが体勢を低くする。

《これでデリートだ》

凄まじいスピードでミゼルオーレギオンが突っ込んで来る。
一直線にミゼルオーレギオンが狙ったのはミネルバ改の方だ。
装甲を貫くような一撃がミネルバ改に叩きつけられる。

「ミネルバ!!」

「必殺ファンクション!」

《アタックファンクション ソードビット》

このままじゃ、ミネルバ改が…!

僕は必殺ファンクションを発動させる。
アキレスD9の背部のバックパックから八本のソードビットが飛び出して、ミゼルオーレギオンに迫った。

《ナイトモード》

「あっ!?」

ミゼルオーレギオンが特殊モードを使う。
それによってソードビットがあと少しでミゼルオーレギオンに到達するというところで、オレンジ色のシールドが展開され、ソードビットが弾かれ地面に突き刺さった。

《ストライクモード》

目にも止まらぬ速さでミゼルオーレギオンが動き出す。
そのスピードに目が追い付かない。
ミゼルオーレギオンの攻撃で宙に投げ出されると左右から更に攻撃を加えられる。

抜け出せない……!

アキレスD9が攻撃され続ける中、ミネルバ改が立ち上がって標準を定めようとするけれど、ミゼルがそれに気づいた。

《バーニングモード》

それはミネルバの特殊モードだ。
炎を纏った攻撃がミネルバを襲い、遥か後方へと吹き飛ばされた。
炎と煙が舞う。

爆炎が薄く晴れ出したそこにはフレームがひび割れ、バチバチと火花が散らしたミネルバがいた。

「ミネルバ! 動いて!!」

ミネルバ改はブレイクオーバー寸前だ。あと一撃喰らってしまえば、おそらく…!

《まだ、やるの?》

ミゼルは不可解だとばかりに呟く。

「俺たちは最後まで諦めない! この世界は俺たちが護る!」

オーディーンMk-2が飛行形態に変わり、ミゼルオーレギオンに追い付こうとする。
ミゼルオーレギオンもまた飛行形態になってオーディーンMk-2を引き離しにかかる。

二体は飛行しながら相手に攻撃を加えて、オーディーンMk-2が前に出るとミゼルオーレギオンに追いかけられるような形になった。

《アタックファンクション スティンガーミサイル》

飛行形態を解いたミゼルオーレギオンから小型ミサイルが飛ぶ。
追尾してきたミサイルはオーディーンMk-2にぶつかって爆発し、爆風でバランスを崩された機体に更に爆発が襲い、オーディーンMk-2は地面に叩き落された。

「オーディーン!」

《これで壊れないなんて、やっぱり山野博士が作ったLBXはすごいね。
それも僕が貰っちゃおうかな》

ミゼルが不敵に笑いながら言う。

なんて奴だ…!

「くっ…!」

《アタックファンクション JETストライカー》

莫大なエネルギーを纏った攻撃が迫る中、僕はアキレスD9を動かした。
信じられないようなスピードで突っ込んでくるミゼルオーレギオンの動きをどうにか捉えると、渾身の力で建物に向かって吹っ飛ばした。
ミゼルも黙って吹き飛ばされているわけじゃない。剣と剣がガチガチと音を鳴らし、火花が飛ぶ。

「これ以上、世界もLBXも勝手にさせない!!」

ミゼルに負けるわけにはいかない! LBXの為に、ここまで一緒に戦ってきてくれたみんなの為にも! 絶対に!

《人間のくせに…!》

ミゼルから怒気の孕んだ声が出てくる。
ミゼルオーレギオンの背後からオーディーンMk-2が攻撃してくれるけれど、それも弾かれた。
僕たちをすぐには立てない状態に追い込むと、ミゼルオーレギオンがエネルギーを溜める体勢に入った。

必殺ファンクションが来る!

《アタックファンクション 我王砲》

我王砲がアキレスD9に向かって放たれる。

逃げきれない…!

そう思った時、我王砲と僕たちの間にミネルバ改が滑り込む。
防御態勢を取り、エネルギー砲に押されながらも足元から火花を散らして、踏ん張ってくれている。

「逃げてーーーっ!」

ランさんのその叫びと共にアキレスD9はその場から離脱することが出来た。
でも…だけど…ミネルバ改は我王砲のその強力なエネルギーによって破壊されてしまった。
頭や体がバラバラになっているのが煙の間から見える。
ランさんがギリっと唇を噛んだ。

《理解不能だ。何故無駄なことを……》

「無駄じゃない! 仲間の為に戦うことは…無駄なんかじゃない!」

心底分からないというようなミゼルに対して、ランさんはそう言い切った。

そうだ。無駄なはずがない。
ランさんの戦いが無駄であっていいはずがない! そんなことは僕たちがさせない!

「ランさんの言う通りです!!」

《WVモード》

「そうさ! それが人間の力を生み出すんだ!!」

《WXモード》

アキレスD9とオーディーンMk-2に搭載された特殊モードを発動させる。
CCMがそれに合わせて変形し、二体は黄金色に輝いた。

黄金色に輝くアキレスD9とオーディーンMk-2でミゼルオーレギオンに立ち向かう。

「仲間と力を合わせれば、大きな力になる!!」

《くだらない。
そんな不完全なロジックだから最適化しなくちゃいけないんだよ。

バンさんの言葉をミゼルは切り捨てる。
特殊モードを発動してもまだミゼルオーレギオンの方が優勢だ。
装甲は堅い。スピードは速い。攻撃は重い。

ミゼルに対するあと一歩が届かない。

《どう足掻こうと君たちは負ける》

「負けはしない!!」

ミゼルからの当然だという一言に僕は叫んだ。

負けられない! ミゼルにこの世界を渡す訳にはいかないのだから!
どんなにダメな状況でも足掻いて、足掻いて、それで勝利を掴むんだ!

それがヒーローだ!! どんなに絶望が前に立ち塞がっても決して挫けない!

アキレスD9の一撃がミゼルオーレギオンの腰部に入る。
ピシッとミゼルオーレギオンの装甲に罅が入るのが見えた。

アキレスD9の攻撃がミゼルオーレギオンに漸く届いた!

《何っ!?》

ミゼルが驚愕の声を上げる。
それと同時にミゼルオーレギオンの動きがやや鈍くなる。
僕とバンさんはそれを見逃さなかった。

《馬鹿な!》

「必殺ファンクション!!」

《アタックファンクション グロリアスレイ》

「必殺ファンクション!!」

《アタックファンクション ビッグバンスラッシュ》

お互いの必殺ファンクションでミゼルオーレギオンに畳みかける。
グロリアスレイのエネルギー弾がミゼルオーレギオンに直撃し、そこにアキレスD9のビッグバンスラッシュを叩き込む。
二つの必殺ファンクションでミゼルオーレギオンの羽がもげ、地面に転がった。

《あ、あり得ない…》

ミゼルの姿がノイズ交じりになる。
多分ミゼルオーレギオンがミゼル自身だからダメージもダイレクトに伝わっているのだ。

僕はそれに少しだけ目を見開いて……被りを振って前を向いた。

「「これがWの力だ!! 合体必殺ファンクション!!」」

《《アタックファンクション ダブルレイウィング》》

アキレスD9とオーディーンMk-2の合体技。
飛行形態になったオーディーンMk-2にアキレスD9が乗り、その最大スピードとアキレスD9の最大出力でミゼルオーレギオンに突っ込んでいく。

今の僕たちに出せる全力にして最大の必殺ファンクションをミゼルオーレギオンへとぶつける!

《僕は完全なる地球最適化プログラム。
なのに、何故……》

機体に入った罅がどんどん広がっていき、ミゼルオーレギオンは光に包まれるようにして爆発を起こす。
黒い煙と赤い炎がジオラマを撫でていく。
爆炎を抜けて、傷つきながらもアキレスD9とオーディーンMk-2が最後までジオラマの中に立っていた。

「やったあ!!」

「ランさん!」

「ありがとう、ラン!」

「ありがとうございます!」

ランさんとミネルバ改が身を挺してくれなければ、ミゼルに勝つことは出来なかった。
僕とバンさんはランさんにお礼を言う。
ランさんは僕たち二人にお礼を言われると少し気恥しそうだったけれども、いつものキラキラとした瞳で「うん!」と頷いた。

僕たちが勝利を噛みしめていると、床に転がっていたミゼルがぴくりと動く。
変化した姿から元の姿へ戻りながら、ゆっくりとした動作で起き上がった。

「ミゼル…!」

立ち上がったミゼルは僕たちをじっと見てくるだけで何も言わなかった。

そして不意に笑みを浮かべる。
僕たちが見ていたどの笑みとも違う、ちょっとだけ何か理解しかけているような、そんな曖昧な笑みだ。

「完全が不完全に負けるとは……」

自分自身を嘲るように、信じられないものを見るように、そう言った。

「確かに人間は不完全かもしれない」

バンさんは静かに、けれども力強い声で言う。

「でも…だからこそ完全を目指して進化するんです!」

僕たちは不完全だ。バンさんの言うように完全なものはきっとこの世界にはない。
前に前に進んでも、必ずその途中には失敗があり、満足できない結果が待っている。
ミゼルの言う完璧に、完全に、というのは到底無理な話だろう。

でも僕たちは前に進む。完全を目指して、より良いものを目指して。

それが人間だと僕は思う。

「不完全だから進化する、か」

ミゼルは僕の言葉を反芻する。
彼は……それでも理解したというようなことではなく、自分が不完全に負けたという事実を受け入れただけのような気がした。
自分が負けた。自分は一瞬でも不完全に負けてしまったという事実に。
僕たちとミゼルの間にはやっぱり隔たりがあって、それがなくなることもまたないような気が僕はした。

彼は少し微笑んで呟くように僕たちに言う。

「………いいさ、好きにしたらいい」

ミゼルはその言葉を最後に膝から崩れ落ちた。
その身体がもう一度動くことはなかった。


■■■


ミゼルオーレギオンを破壊して、ミゼルを倒すことは出来た。
見てることしか出来なかったけれども、バン君もヒロもランも良く戦った。
世界は救われた、その筈だったのだけれども、「セト50」の起爆装置が作動してしまった。

おそらくミゼルトラウザーが崩壊を始めた為に誤作動を起こしたと考えられるけど、衝撃自体はグランドスフィアで吸収出来る。
でも、ミゼルトラウザーの中にはまだバン君たちがいる。
ミゼルトラウザーの崩壊で出入口が埋められ、身動き出来ない状態にいる。
内部を探って脱出の為の出入口を探しているけれども、このままでは爆発に巻き込まれる。

絶望的な状況に山野博士すら黙ったままだ。

バン君たちの通信ではあと五分がタイムリミットだという。
五分だ。五分しかない。

そんなどうにも出来ない状況に喝を入れたのは郷田さんだ。

「あいつらを見殺しになんて出来ません!
俺一人でも助けに行きます!」

郷田さんのその言葉にみんなが顔を上げる。
そして何か思い付いたのは山野博士だった。

「……そうだ、みんな! 頼みがある!
霧島さん、予備のOPG端末を出してくれ!
ジェラート中尉! 予備のOPG端末を急いでミゼルトラウザーに向かって運んでくれ!」

山野博士からの指示が飛ぶ。
何をしたいのか分からなかったけれど、CCMからは霧島さんとジェラート中尉の声が返ってきた。

「みんなは各自のLBXをミゼルトラウザーの外に!」

「山野博士! 一体何を……」

山野博士の勢いに押されるようにして、私たちはダックシャトルから外に出る。
外に出る間にCCMを操作して、私たちのLBXをミゼルトラウザーから脱出させる。

ミゼルトラウザーの外にはプロト・IがOPG端末の入った小型のボックスを持って構えていた。
山野博士の指示で各LBXでそれを持つと、プロト・Iはすぐにグランドスフィア内から離脱する。

「予備のOPG端末を使って、極小のグランドスフィアを作り、脱出するバンたちをそれで包み込む。
タイミングが重要になるが君たちになら出来る!」

「タイミングが重要って…」

グランドスフィアの外からミゼルトラウザーを目視で確認する。

各関節部からは黒々とした煙が出ていて、翼は地面に転がっている。
その中でミゼルトラウザーの胸部から出てくる人影が見えた。

バン君たちだ。

ほっと胸を撫で下ろす。良かった、ミゼルトラウザーから出ることが出来たのだ。
バン君たちがミゼルトラウザーから出てきてくれた。それなら私たちもやらなければいけない。

時間がない。

打ち合わせも何も出来ないけれど、バン君たちを助けたい気持ちは皆同じだ。
今度は私たちが彼らを助けるんだ。

バン君たちは胸部から更に小さな取っ掛かりを利用してミゼルトラウザーの外側に出ると、そこから飛び降りるような姿勢を取るのが見えた。

それだけでバン君たちが諦めていないのが分かる。

もうすぐ「セト50」が爆発する。CCMに映るカウントはもう20秒を切っていた。

彼らが飛び降りた瞬間、「セト50」の光が弾けるその前、起動させたOPG端末を持ったLBXでバン君たちを包み込む。

青い小さな球体が彼らを包むんだその直後に、彼らの奥から眩い閃光が溢れ出した。

グランドスフィア全体を光と熱、衝撃波が焼く。
橙色に弾けるそれは目を開けていられないほど眩しくて、でも熱波や衝撃波は襲ってこない。
グランドスフィアが物理的なダメージを吸収してくれているからだ。
でも地面からはビリビリと振動が来て、身体が揺れた。
目を焼くような光が止むのを待って目を開けると、グランドスフィアの中は更地となっていて、ミゼルトラウザーの形すら焼けて確認出来なかった。

ミゼルトラウザーを覆っていたグランドスフィアがOPG端末の停止によって徐々に消えていくのが見えた。
青い網が一つ一つ解かれていく。
その中を私たちのLBXが持った小さなグランドスフィアの球体が浮いていた。
遠目ではあるがバン君たちが中にいるのが確認出来た。LBXのカメラでも確認出来る。特に目立った傷もなさそうで良かった。
三人は少し気を失っていたようだけれども、すぐに意識を取り戻したようだった。
バン君たちを包むグランドスフィアを形成するLBXのカメラに彼らの驚いた顔が映る。
その顔に私は思わず、くすりと笑ってしまった。

「帰ってきたわ!」

「おーい!」

アスカと一緒にバン君たちに向かって手を振る。一番最初に気づいたランが手を振り返してくれる。

「全く…冷や冷やさせるわね」

ジェシカは呆れたように肩を竦めたけれども、同時に安堵の溜息を零した。

「成功ですね、博士」

カズ君が山野博士を見上げてそう言う。
バン君たちの姿を見て、無事なのを確認して、やっと緊張の糸がゆるゆると解けていくのを感じた。
それはきっとみんな同じだ。

「ふっ、諦めの悪い奴らだ」

「お前が言うか」

「お前こそ言うな」

キリトさんと郷田さん、仙道さんがそんなことを言い合っている。
私からすれば全員諦めが悪いのだけれども、特に郷田さんの諦めの悪さは私たちを助けてくれた。

山野博士のCCMにバン君からの通信が入る。
全員が彼の声に耳を傾けた。

「バン、ヒロ、ラン。良くやってくれた!」

《父さん! 父さんのつくったLBXが世界を護ったんだよ!
LBXをつくってくれてありがとう! 父さん!》

バン君の明るい声が響く。
一番最初にLBXをつくったのは山野博士だ。
「ありがとう」と言われた山野博士は嬉しそうに微笑み、幸せそうだった。

《バンさん! 僕たち、本当のヒーローになれましたよね?》

ヒロが殊更輝きを放つ声を出す。

《……そうなんじゃない!》

ランはそれに負けない声で言う。

ヒロたちは本当のヒーローだ。彼らは世界を救ったのだから、胸を張って良い。
グランドスフィアの球体が降りてくる。
LBXもグランドスフィアで護られたのだろう。キラードロイドと戦った傷以外は見当たらなかった。

そしてバン君はとびきりの笑顔を浮かべる。
嬉しそうだった、心から。
その笑顔に私も笑みを零さずにはいられなかった。

《ありがとう、みんな! ありがとう、LBX!》




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