07.再会の時
アミが目覚めたのを確認してから、目の前のジオラマの中で転がっているLBXを見やる。
アミのパンドラと黒いクノイチが二体。
クノイチの方を手に取ると、関節部は弾丸を受けたことで破損していて、エルシオンの攻撃を受けた痕もある。
ランの話ではどこからか飛んで来たという弾丸は正確にLBXの関節を貫いていた。
それが致命傷になったのは確かであり、いくつか的を外れたものもあるが、狙いは悪くない。
ただバン君たちがミネルバの助けに入る前に撃たれた一発はパンドラのホープエッジによって弾かれ、ジオラマの地面を大きく削っている。
「うわっ! 穴だらけですね」
「ええ。
それにしても、ランの言ったことが本当だとしたら、すごい遠距離射撃ね。
一体どんな武器で撃ったのかしら……?」
ジェシカは首を傾げながら、パンドラやクノイチの弾痕を確認する。
彼女の記憶力は並外れたものだということは、先程の港運管理センターではっきりとしている。
彼女も記憶していないということは、遠距離射撃に特化した新型の武器を使ったのか。
………誰が、何のために?
「…………」
無言のまま深く考え込んでいると、ジェシカが僕の手からクノイチを取り上げる。
それから、ジオラマの中からパンドラを手に取った。
「今回はミネルバを助けてくれたけど、敵の可能性もあるわ。
弾丸が残っているはずだから、『NICS』に持ち帰って調べましょう」
「敵ってことはないと思うけどなー」
ランはそう呟くけれど、ジェシカは「そうもいかないでしょう」と言って、首を横に振った。
ランは覚束ない動きのアミを支えながら、不服そうに頬を膨らませる。
「とりあえず、下に下りよう。
アミのこともあるし……」
バン君の提案に僕たちは頷く。
アミはジェシカとランが支え、屋上に続いていた扉の方へとゆっくりと歩いて行く。
僕はバン君たちとその後を追おうとして、その前にもう一度だけジオラマの中を見た。
そして、弾丸が飛んで来たと思われる方向に目を向ける。
そうしていると、ヒロが僕に気づいて声を掛けてきた。
「ジンさん。どうかしたんですか?」
「……いや、なんでもない。行こう」
ヒロにそう言うと、僕はバン君たちの後を追った。
■■■
「ディテクター」による洗脳が解けたアミを日本に送り届けるためにトキオシティに到着すると、僕はヨルに連絡を入れる。
無機質なコール音が耳に響く。
アミを助けたことはダックシャトル内でメールしたが、電話はしていない。
「ディテクター」に洗脳されていた時の状態を聞くことを優先していて、それほど暇がなかったからだ。
《はい。もしもし》
数回コール音が響いた後に、ヨルの声が聞こえてくる。
彼女の声を聞いた瞬間、少しだけ身体が強張ってしまう。
それでも、普段と変わりない自然な声に安堵した。
僕は気づかれないように深く息を吸ってから、ヨルに用件を伝える。
《そっか。無事に日本に着いたんだね。
良かった……。
アミちゃんと話は出来るかな?》
「ああ。おそらく大丈夫だ」
里奈さんたちがアミを迎えに来るまで、まだ時間がある。
僕は頷くとCCMから耳を離し、アミの方へと向かう。
「アミ。ヨルが話したいと言っているが、大丈夫か?」
「ヨルから? ええ。大丈夫よ」
アミは僕の手からCCMを受け取ると、それを耳に当てる。
少し会話するとアミの表情が和らいでいく。
どんな話をしているのかは分からないが、それほど緊迫した空気は感じない。
ヨルは以前から友人だったバン君やアミを敬遠していたところがあったが、心配は不要だったようだ。
会話は弾んでいるようで、いつの間にかアミがCCMの向こう側にいるヨルを姉のように叱りつけていた。
「まったくもう! ……でも、話せて良かったわ。
うん、それじゃあね。ヨル。
ジン、通話を切っても大丈夫かしら?」
「………ああ。構わない」
少しだけ、ほんの少しだけ躊躇してから、僕は頷いた。
通話を切って、アミは満足したように笑うと僕にCCMを返す。
僕はCCMを受け取ると、それを一度だけギチリと強く握った。
「………」
少しすると、拓也さんと里奈さんがやって来る。
二人はコブラと挨拶をし、アミを挟むようにして僕らと対面した。
拓也さんはともかく里奈さんとは初対面の者も多いので、最初に自己紹介をしてから、拓也さんが話を引き継ぐ。
「コブラから事情は聞いた。
みんな、ご苦労だったな」
「大変な目に合ったわね。
アミちゃんのことは私たち『シーカー』にまかせて。
二度と『ディテクター』には手出しさせないから」
「お願いします!」
「じゃあ、行きましょうか」
「はい。じゃあね、バン。
みんなもありがとう」
アミの言葉に僕たちは頷くことで返す。
「シーカー」にまかせれば、アミのことは大丈夫だろう。
「店長や郷田によろしくな!」
「うん!」
アミがそう言って去ろうとすると、左隣からすすり泣くような声が聞こえてくる。
見ると、何故かオタクロスが涙を浮かべていた。
「アミたん…!
ワシとのお別れの抱擁を〜!!」
「ダメですって! オタクロスさん!」
里奈さんと一緒に歩いて行くアミに突っ込んで行こうとするオタクロスをヒロとランが必死で抑える。
隣のジェシカとバン君は少しばかり呆れていたが、アミは振り向き、オタクロスに手を振った。
「じゃあね。オタクロス」
「アミた〜ん!!
……行ってしまった。ワシのアミたんが……」
目に涙を浮かべて、オタクロスが項垂れる。
その様子にランは少しばかり引いているようだった。
「さあ、出発だ!
俺たちの戦いはまだこれからなんだからな!
で? あんたも来るんだろう?」
「ああ。頼む」
「え? 拓也さんも一緒に!?」
「そうだ。だが、俺だけじゃない」
拓也さんはそう言うと、視線を自分の背後へと移す。
何があるのだろうかと僕たちも視線をそちらの方へ移すと、誰かが僕たちの方に向かって歩いて来ていた。
その人物が誰だかはっきりと分かった時、思わず目を見開いてしまう。
「ユウヤ……」
灰原ユウヤがそこにいた。
驚きを隠せない僕に、彼は確かな意志の宿る瞳を向けて言う。
「久しぶりだね。ジン君」
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