73.神の怒り


イノベーター研究所でキラードロイドと交戦するもどうにか倒して「NICS」に戻ったは良いが、今度はミゼルによってタイニーオービット社が攻撃されてしまった。
知らせを受けた私たちがタイニーオービット社に向かうと、入り口には社員の人たちがたくさんいて、中に入れないのだと分かる。

正面入り口は見えたけれど、建物の中は暗い。
電気を落としているのかしら。

「バン君!」

「霧島さん」

「タイニーオービット社がベクターに襲われたって本当なんですか?」

私がそう質問すると、霧島さんは静かに頷く。

「ああ、あまりにも突然の出来事だった…。
ベクターのハッキングによってファイヤーウォールが次々に破られ、タイニーオービット社内へのベクターの侵入を許してしまった。
ベクターは社内にあったLBXをゴーストジャックして暴走させ、オペレーションルームから最重要データ区画にアクセスされたんだ。
あそこにはタイニーオービット社が今まで開発した全LBXのデータが保存されている。
ベクターはそれを狙ったんだ」

「では、タイニーオービットの電源が落ちているのは…」

暗い正面入り口を見ながら、ジンが言う。
霧島さんはジンのその言葉に沈痛な面持ちで頷いた。

悔しいとありありと分かる表情をしている。

「そうだ。
最重要データ区画をベクターから護るために、宇崎社長がタイニーオービット社の全電源を落とすよう指示を出した。
宇崎社長と主任、石森さんの三人が重要データを護るためにまだタイニーオービット社内に残っている。
今は宇崎社長たちと全く連絡が取れない状況だ。
おそらくベクターが社内の通信用電波を遮断しているのだろう」

「ミゼルの奴、タイニーオービット社を狙うなんて…!」

「コントロールポッドルームに石森さん、レベル4研究室には結城主任、そして社長室に宇崎社長と霧野さんが…!
この三箇所には絶対に奪われてはならないデータと試作品が存在している」

「それを護るために拓也さんは……」

「停電状態にすればハッキングを無効化出来るからな。
だが、このまま籠城を続ければ、彼ら自身に危険が……」

停電状態にするというのは、ゴーストジャックされたないためにアスカが提案していたことでもある。
でも、社内のLBXはゴーストジャックされている。
八神さんの言う通り、籠城時間が長くなればなるほど拓也さんたちに危険が迫るわ。

「急いで助けに行かなくちゃ!」

私が言うと、バンたちも大きく頷いてくれた。

「よし!」

どう救出しようかと相談しようとしていると、CCMが鳴る。
相手は山野博士から。

「父さん!」

《状況は聞いた。おそらく中はベクターにゴーストジャックされたLBXでいっぱいだろう。
バン、イカロス・ゼロの修理は完璧ではない。
戦闘には十分注意するんだ》

「分かった!」

イカロス・ゼロが万全でないということは私たちが出来る限り補助しなければならない。
ベクターに対抗するためにも、救出に向かう途中でダメージを受けさせるわけにはいかない。

「四人がいる場所は分かれている。
手分けして救出に向かおう」

「バン君、レベル4研究室と社長室には僕が行く」

「俺も一緒に行くぜ!
中距離でサポート出来るから適任だろ」

ジンとカズが一緒に行くならば、私とバンとヨルがコントロールポッドルームに向かう。
パンドラなら近距離でイカロス・ゼロのサポートが出来るし、ヨルになら安心して後方を任せられる。

「バン、ヨル、私たちは里奈さんの救出に!」

「ああ!」

「案内しよう、こっちだ!」

霧島さんの案内で私たちはタイニーオービット社よりも少し遠い場所にある、地下通路の入り口までやって来る。
ここは一年前に「イノベーター」がタイニーオービット社に侵入する際に使っていた地下通路で、あれ以来閉鎖していたけれど、今は緊急事態。

停電前ならセキュリティが働いて簡単に入れなかったけれど、今はイカロス・ゼロの一撃で壊すことが出来た。
私たちは地下通路をまっすぐ進み、一階へと続く階段を駆け上がる。

そこからは別行動。

私たちはコントロールポッドルームへ、ジンとカズはレベル4研究室に向かう。

「来たぞ! ゴーストジャックされたLBXだ!」

コントロールポッドルームに続く通路にはゴーストジャックされたLBXで埋め尽くされていた。

「俺が中央突破する! 倒し損ねた敵を頼む!」

「分かったわ!」

「了解!」

イカロス・ゼロで敵LBXに突っ込んで行くバンを援護する。
ゴーストジャックされていると言っても、司令塔になるベクターはいない。
性能は市販のLBXと変わらず、強化もされていないから容易に倒すことが出来るわ。

でも、圧倒的に数が多い。
確実にブレイクオーバーさせつつ、通路を進む。

漸くコントロールポッドルーム手前と言うところで、銃撃独特の光がとどろいているのが見えた。
LBXたちがコントロールポッドルームの扉に砲撃を加えている。

「バン君! アミちゃん!
床から離れて!」

後方の敵を蹴散らしたヨルが叫ぶ。
その言葉の意図を理解した私たちは床から飛び退く。
イカロス・ゼロは上へ、パンドラはジャバウォックの後方に下がらせる。

「必殺ファンクション!」

《アタックファンクション 鳴神》

ジャバウォックが電撃を纏った槍を振り下ろす。
槍を中心に電撃が広がり、扉を壊そうとしていたLBXを一網打尽にした。

放電が終わるとバチバチと電気の弾けるような音がブレイクオーバーしたLBXから聞こえてくる。
コントロールポッドルームの扉は若干焦げていて、威力の高さが伺える。

範囲攻撃としては十分すぎる程の威力ね…。

「助けに来ました! 里奈さん!」

バンが扉を叩いて里奈さんに呼びかけると、プシューっと音を立てて扉が開いた。

「良かったわ、来てくれたのね。
おかげでコントロールポッドのデータを守ることが出来たわ」

里奈さんは手に持っていた厚めのタブレットを握り直した。
彼女はほっとしたような表情をした後、きゅっと険しい顔つきになる。

「レベル4研究室…結城君は?」

「カズとジンが向かっています」

「行きましょう。あそこには絶対に奪われてはいけないものがあるのよ」

「はい!」

来た道を戻り、レベル4研究室に向かう。
ジンとカズが結城さんを救出していれば、上手く合流出来るかもしれない。

通路にはジンたちが壊したらしいLBXの残骸が見える。
先を行くと、LBXたちのいない通路でジンとカズ、それから結城さんの姿が見えた。

「ジン! カズ!」

「バン君!」

「無事で良かったわ、結城君」

里奈さんのその言葉通り、結城さんは無事なようだった。
その手には里奈さんと同じように小型のケースを抱えている。
あれを守るために結城さんはレベル4研究室に留まったのね。

「里奈さんも!」

「後は社長室の拓也さんと紗枝さんだけだ」

「よし! 急ごう!」

社長室は一番上にある。
LBXのいない通路を抜けると、社長室までの道のりにはやっぱり敵のLBX。
そいつらを蹴散らしながら、先を急ぐ。

こうしている間にも拓也さんたちはLBXの襲撃を受けているかもしれない…!

「このまま社長室まで突っ切るぞ!」

あと少しで社長室というところで、後ろから飛行音が聞こえてきた。
ライディングソーサーに似ているような…でも、私たちはライディングソーサーを持って来ていないし、要請してもいない。
左右に分かれて、地面すれすれに飛んで来たそれを避ける。

飛んで来た物体は空中でくるりと回るとそこで停止したかと思うと、形を変えていく。

飛行モードから変形したのは、オーディーンだった。

「オーディーン!? どうしてここに……」

「ベクターだ…。
ベクターがメンテナンス中だったオーディーンをゴーストジャックしたんだ!」

「そんな…!」

「バン君、今のオーディーンは敵だ。
倒さないとタイニーオービット社を取り戻すことは出来ない」

ジンが冷静に言う。
バンは数秒躊躇したけれど、CCMを構え直した。

「……やるしかない!」

私は手持ちのDエッグを投げる。
Dエッグはエネルギーフィールドを展開して、それぞれのLBXがジオラマ内に放たれる。

五体同時にオーディーンに向かって走り出す。
各々が全力で攻撃を加えるけれど、オーディーンはその攻撃を全ていなした。

攻撃を躱された時にアキレス・ディードとジャバウォックが弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
イカロス・ゼロが攻めるけれど、オーディーンはそれを軽く躱して、イカロス・ゼロに連続攻撃を仕掛ける。
イカロス・ゼロは弾き飛ばされつつも耐えたけれど、地面に足を着いた瞬間、右足に閃光が走った。

「ダメージがまだ…!」

そこにオーディーンが畳み掛ける。
オーディーンの一撃でイカロス・ゼロは吹き飛ばされ、ジオラマの岩山に激突するとずるずると地面に落ちて、ブレイクオーバーする。

「イカロス・ゼロ!」

「僕たち四人でオーディーンを止める!」

パンドラで切り込むけれど、全てオーディーンに躱される。

「速い!」

「この……っ!」

アキレス・ディードの空中からの攻撃もオーディーンは防御し、同じ高さまで跳ぶとアキレス・ディードを叩き落とした。

「そこだ!」

着地の瞬間を狙ってトリトーンとジャバウォックが同時に斬りかかる。
でもオーディーンはそれを受け流し、巧みにこちらに攻撃を加えてきた。

四人がかりで手も足も出ないなんて……!

「これがベクターに操られたLBXの力か…!」

「くっそ!」

アキレス・ディードを岩に叩き付けられたカズが低く呻く。

「なんて強さなの」

「一か八か…カズ君、これを使え!」

結城さんはそう言うと、何かをジオラマ内に投げた。
空の上から現れたそれをアキレス・ディードが受け取る。

「ロングレンジからの狙撃は君が一番得意だろう!
君がルミナスシューターを使うんだ!」

投げられたルミナスシューターがどんな武器なのかは私には分からない。
でも、結城さんの言葉から考えて射撃用の武器。

なら、隙は私たちがつくる!

「分かった!」

「バックアップは私たちに任せて!」

「頼む!」

アキレス・ディードの前に立ち、迫ってくるオーディーンを迎え撃つ。
私たちがオーディーンを相手にしている間にアキレス・ディードは空中に飛び、狙いを定める。

「みんな退くんだ!」

オーディーンを引き剥がした瞬間を狙い、ルミナスシューターが放たれる。
光弾はオーディーンの横をすり抜けると、地面に当たり爆発した。

「これがルミナスシューター…反動でアキレス・ディードが吹き飛ばされるなんて…」

地面を大きく抉ったルミナスシューターの威力に慄く。

「あの反動を受け止めるためには空中で撃っちゃダメだ。
しっかりと踏ん張り、狙いを定める」

パンドラ、ジャバウォック、トリトーンでオーディーンに切り込んで行く。

「そこだ!」

一瞬の隙に今度こそオーディーンを倒そうと引き金を引いたけど、ルミナスシューターから弾が発射されない。

「な、なんで…!?」

「チャージ中だ!
ルミナスシューターは膨大なエネルギーを撃ち出すため、三十秒のチャージ時間が必要なんだ!」

「マジかよ…」

「イカロス・ゼロが万全なら……!」

悔しそうにバンが言う。

イカロス・ゼロがいれば…。
確かにそう思うけれど、今言っても仕方がないわ。
私たちでどうにかする!

「ぐっ!」

アキレス・ディードを狙ってくるオーディーンを迎え撃つ。

「オーディーンは僕たちが抑える! 攻め続けるんだ! ヨル、アミ!」

「分かった!」

「ええ!」

三体でオーディーンを攻め続ける。
攻め続けているとオーディーンは体勢を崩し始めた。

「今だ!」

トリトーンが自分の武器を投げる。
オーディーンの胸部から少し右を掠めたハンマーはオーディーンの体勢を崩すことに成功した。

「充填完了! いっけーーーっ!」

放たれたルミナス・シューターはオーディーンの胸部を貫き、背後にあった岩山を砕いた。
バトル終了の判定と共にエネルギーフィールドは収束する。
その場にはバラバラに砕けたオーディーンだけが残されていた。

「すげえ威力だ…」

カズの言葉に同意するしかない。
対してバンは砕け散ったオーディーンを悲しげな表情で見つめていた。

「………オーディーン」

砕け散ったオーディーンをこの場で修復することは出来ない。
一先ずはオーディーンの破片を集めてから、社長室の扉を結城さんと拓也さんでがこじ開けた。

「社長!」

「みんな!」

拓也さんと紗枝さんは無事なようだった。

「君たちも無事だったようだな」

拓也さんは私たちの顔を見回すと、安堵の息を吐いたのだった。





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