06.射手
人のいないところへ、いないところへと進んで行きながら、階段を駆け上がっていく。
司令コンピュータの電波は上に行けば行くほど強くなってる。
それにさっき敵のLBXも倒したし、きっとこの上に司令コンピュータがある。
あたしの後ろにはバンもオタクロスもいない。
オタクロスが格好つけたせいでギックリ腰になって、バンがオタクロスを連れてくるから、あたしが先に上に行くようにバンに頼まれたのだ。
バンたちが追いつくまで待てって言われたけれど……。
「立ち入り禁止」と書かれた札がぶら下がっているロープを飛び越える。
跳び越えた先には屋上への扉が見える。
「この先か…」
そう呟いて、あたしは屋上へと続く扉を開けた。
一応警戒するけれど、敵のLBXの気配はない。
そのままCCMで司令コンピュータの電波を確認しながら、壁伝いに歩いて行く。
ゆっくり歩いて行くと広場みたいな場所に出て、CCMを振りながら電波が強い位置を探す。
電波が一番強くなった場所を見つけて、顔を上げる。
そこには変な顔をしたパンダのような建物があった。
「あの中に!」
パンダの視線を向けたまま、あたしはすぐにバンに連絡する。
バンはすぐにコブラとみんなに伝えると言って、それからあたしにその場で待機するように言った。
あたしはそれを不満に思いながら、「分かったよ…」と答える。
「待機しろって言われたけど……」
あたしは目の前のパンダを見上げて、そこに続く階段に足を掛ける。
スレイブプレイヤーがいなければ、そのまま司令コンピュータを止めれば良い。
いるんだったら、あたしがぱぱっとやっつけちゃえばいいんだから!
そう思いながら上ると、丁度開けた場所に出る。
そして、そこには……
「! あんたはさっき下にいた……!」
そう。
さっき下にいたはずの変な顔をしたパンダがそこにいた。
動かない目はあたしを見下げるようにしていて、なんか少しムカつく。
「…………」
パンダは無言のまま、あたしに見せつけるようにLBXを取り出す。
紫色の、如何にも悪者って感じのカラーリングのLBXだった。
「『ディテクター』のスレイブプレイヤーか。
よーし! やってやる!」
あたしは一気に階段を駆け上がって、パンダの目の前に立つ。
パンダはふっと笑ったように思えたけれど、ずんぐりとした体を動かして、この場所の中央に置かれていたジオラマの方に向かった。
あたしもその後に続いて、パンダとは反対側に立つ。
「ミネルバ!」
「…………」
ジオラマの中にミネルバを放つ。
パンダも同じようにジオラマの中にLBXを入れる。
さっきの紫色のLBXに、それから黒いクノイチが二体か…。
「一対三か!」
あたしはすうっと息を吸う。
落ち着けと一回だけ自分に言い聞かせる。
花咲流空手の極意は「己を知る」こと。
だから、一人で「ディテクター」に通用するか、試してみる!
相手に意識を集中して、一度だってその動きを見逃さないように、しっかりとジオラマの中を見る。
よし!
「着ぐるみだからって手加減はしないよ!」
先手必勝!
あたしは敵のLBXが動くよりも先に動く。
紫のLBXを叩こうとするけれど、寸前で避けられる。
避けたと思った紫のLBXは助走を付けて、ダガーでミネルバに斬りかかってくる。
ミネルバはそれを避けて、どうにか着地する。
体勢を立て直そうとしたところで、左右から黒いクノイチが襲い掛かって来た。
一体目は蹴りを入れようとしたけれど避けられて、二体目のクノイチの攻撃は腕で防いで、攻撃するけれどそれも避けられる。
「このっ!」
二体のクノイチをどうにかしようと思っていると、今度は目の前から紫のLBXが迫ってくる。
低い位置からの一撃。
それを受けて、少し距離が出来た隙に蹴りを打ち込もうとするけれど、あっさりと避けられる。
そして、背中からクノイチで攻撃されてしまった。
攻撃の反動でよろよろと立ち上がるミネルバに二体のクノイチが斬りかかる。
「まだまだー!」
このぐらいで負けて堪るか!
ミネルバが得意なのは接近戦。
距離を取らせたらこっちが不利だと分かっているから、どうにか近づこうとするけれど、敵も分かっているのか、攻撃しては避け、攻撃しては避けを繰り返す。
「ちょこまかとっ!」
三方向から同時に攻撃されて、ミネルバの体勢が崩れる。
「もーっ! 正面からまとめて来なさいよ!!」
真正面から来た二体のクノイチの攻撃を受け流す。
距離を取られる前に…!
そう思っていたのに、背後から落下してくるように蹴られてミネルバが吹っ飛ぶ。
距離を取られて堪るかと、ミネルバクローを地面に突き立て、火花を散らしながらスピードを緩める。
緩まったと同時に、ミネルバを前へと走らせた。
紫のLBXはミネルバの攻撃を避ける。
でも、その動きは予想済み。
瞬時にもう片方のクローで攻撃するけれど、それもダガーで防がれた。
そのままダガーで斬り込まれて、また距離を取られる。
「強い……。
でも、負けない!
《必殺ファンクション》!!」
《アタックファンクション 炎崩し》
距離は十分。こっちの方が動きは速い!
当たる! そう確信して《必殺ファンクション》を放つけれど、当たると思った直前で《必殺ファンクション》を避けられる。
「うそっ……!?」
《アタックファンクション 蒼拳乱撃》
直後に相手の《必殺ファンクション》が放たれる。
打ち出された青いエネルギー弾はミネルバに直撃して、更に爆炎でミネルバの機体がジオラマの壁に打ち付けられる。
ジオラマの地面に叩きつけられて、ミネルバがブレイクオーバーする。
「あっ……負けた……?」
ミネルバが負けた事実に茫然としていると、三体のLBXが倒れたミネルバを取り囲む。
そして、紫のLBXがミネルバの頭を足で踏みつけた。
「ミネルバっ!!」
ガンっという音がして、ミネルバの頭が地面にめり込んだ。
ミネルバが壊される!
でも、どうしたら……!
どうしようも出来なくて、ジオラマを覗き込んで、ギリっと奥歯を噛み締めた時だった。
唐突に小さな銃声が響いた。
そして、ミネルバを踏みつけていたLBXの足に銃弾が撃ち込まれる。
紫のLBXは驚いたように後ろに跳び、着地しようとしたところに更に銃弾が撃ち込まれる。
銃弾のせいでバランスが崩れた隙に、今度は左右にいたクノイチの腕に銃弾が当たって、クノイチの腕が動きを鈍らせた。
「誰っ!?」
ジオラマの中にミネルバと敵のLBX以外の姿は無い。
それなら…とジオラマの外を確認するけれど、あたしから見える場所には人もLBXの姿もない。
ジオラマの中では、敵のLBXたちはどこからか飛んでくる弾丸を避ける。
地面に当たって、破片が飛んだ。
狙いが甘いのか? と思ったけれど、次の弾はちゃんとLBXに当たって、敵のLBXたちは後退していく。
黒いクノイチの両膝を打ち抜いて、そして、紫のLBXの頭に鋭い弾丸が撃ち込まれた。
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