62.鍵のかかった宝石箱


ダックシャトルのブリーフィングルームを重苦しい空気が支配していた。

ヒロの母親である大空博士の力を借りて、フューチャーホープ号の機能を停止させた僕たちは今はA国の国防基地に向かっている。

事の発端はヒロの未来予知だ。

それが本当に予知であるのかは分からないが、彼が艦内で見えた映像と黒幕であったA国副大統領ガーダイン…それから人質に囚われたと思われるカイオス長官、A国大統領の姿が国防基地にあることを見つけた。

ガーダインが一連の事件の黒幕だったのだ。
そう考えると、今までの出来事のいくつかに合理的な説明がつく。

ガーダインの目的は国防基地にある宇宙衛星管理センター。

そこからならば「パラダイス」だけでなく、全ての人工衛星を操作できるらしい。
ガーダインはそこから「パラダイス」の再起動を目論でいる。
そのためには大統領が必要なのだ。
それを阻止するためにも一刻も早く国防基地をガーダインの手から取り戻さなければならない。

最悪の事態はすぐ目の前まで迫っている。

ガーダインが目的のためならば、手段を選ばない人間であることは証明されてしまった。
「オメガダイン」の総帥であったアラン・ウォーゼンが殺されたことによって。

「しかし、檜山君が生きていたとはな……」

ガーダインが今までの事件に関わっていたことの後に、博士は重い息を吐きながら、そう呟いた。
その名前に僕たちの間に緊張が走る。

傍にいたヨルが少しだけ移動して、僕の背後に隠れるようにする。
その手にはLBXと同じ配色のなされたCCMが握られている。

ヨルはレックスを別人として認識している…らしい。
CCM越しに僕も聞いてはいたが、ヨルはレックスのことを「違う」と言った。
何か深い根拠がある訳ではないようだが、どうにも引っ掛かるようで、ブリーフィングルームに来るまでアスカと何回も言い争っていたのを思い出す。

ヨルの言い分は分からなくはないが、肯定はし難い。
みんなに理解されなかったのが響いているのか、CCMはギチッと嫌な音を立てた。

すっと青い瞳が鋭利に細められるのを見た僕はヨルの頭に手を置くと、二、三度軽く撫でた。

「レックス……」

「ガーダインは檜山君がこの世界に抱く憎悪さえ、利用しているのだろう。
その最たるものが、キラードロイド。
あの怪物は憎悪そのものだ。
私はブリントンで初めてキラードロイドを見た時、恐れを感じた。
だから独りの戦いに限界を感じ、キャンベルンで仮面を脱いだのだ」

「博士。バンたちとずっと一緒だったにも関わらず、『ディテクター』が世界征服宣言をしていましたが、あの時の仮面の男は……」

「勿論、録画だ。俺が流した」

山野博士の代わりに答えたのはカズだ。

「つまり、カズはその時点で山野博士の協力者だったんだな」

「ああ」

「じゃあ、なんであんなたくさんのLBXで襲撃してきたわけ?」

「いや、あれは俺じゃない」

ランの尤もな疑問にカズは首を横に振る。
彼女の疑問は山野博士が引き継いだ。

「『オメガダイン』の仕業だ。
恐らくは『ディテクター』を揺さぶるのが目的だったのだろう」

「とにかくガーダインは追い込まれて必死だ。
何をするか分からんぞ」

「大丈夫です!
こうしてみんな集まったんです!
僕たちは負けません!
ジェシカさん!」

立ち上がったヒロがジェシカへと視線を向ける。
とにかく、強い瞳だった。
どこからその自信が来るのか、絶対的な力を持って語りかけてくる。

「長官も大統領も必ず助け出しましょう!」

「……っ、ええ!」

ジェシカはぐっと何かを飲み込むようにしてから、大きく頷く。

《間もなく国防基地レーダー圏内に接近するモ》

「オタクロス」

「ほ〜い来たデヨ。
ちゃーんとレーダーに捕まらないルートを見つけておいたデヨ」

オタクロスがどこからか端末を取り出し、調べ始める。
画面上に渓谷を通るルートが赤く映し出される。

「なるほど、渓谷か。この間を飛んでいくんだな。
よし! 作戦開始だ!」




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